- 848 名前:786[sage] 投稿日:2006/01/19(木) 03:35:33 ID:Lx65mTLM
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一度は諦めた麻弓×樹。もう一回チャレンジしてみました。
とりあえず前書きという名の設定として
・本編楓ENDアフターくらいの時間軸
・何かの力が働き超展開を迎えて麻弓と樹が付き合い始めた(コレ重要)
ということでお願いします。
- 849 名前:786[sage] 投稿日:2006/01/19(木) 03:39:57 ID:Lx65mTLM
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暑かった夏の気配が徐々に退場し、それと交代して次の季節を感じさせる涼風がちらほらとその存在を感じさせ始めた九月後半。
冷房の使用量も減り、それに合わせて各家庭のお母様方が毎月送られてくる電気料金明細書に記された金額にびくびくする光景も次第に減りつつある今日この頃。
とある一軒家の六畳一間。休日を利用して彼の家を訪れている彼女。
狙ったかのように彼の家族は全員留守で、さぞいちゃいちゃと桃色のオーラを撒き散らしているかと思えばところがどっこい。
その場に漂っているのはどんよりとした重たい空気と何やらぶつぶつと呪詛のような呟き。
「……2××3年に目箒の家臣達が傲慢な城主に反旗を翻して新たに臍を開設……」
「うんまあ、何の勉強をしているかは知らないけど、間違いなく今回の試験には出ないね。それ」
「嘘っ!?」
うら若き男女が二人きりの個室で何をやっているかといえば、明日に差し迫った中間考査に向けての最後の追い込み。
今までの一時間が無駄だったと分かった少女、麻弓=タイムは短い悲鳴と共に分厚い本に張り付かせていた顔をがばっと上げる。
「だってこれも世界史じゃないの!?」
「まあ物凄く狭義的な世界史ではあるけどね。ただ今度の試験には間違いなく、絶対に、何がどうあっても出ないだろうね」
「うわーん、貴重な二十四分の一を無駄にしたー」
本を放り投げてテーブルに突っ伏す麻弓に対し、ノンフレームの眼鏡をついっと人差し指で持ち上げながら、緑葉樹はシャープペンシルを動かす手を止め溜息をついた。
「普通見るまでもなく、手に取った時点で分かりそうなもんじゃないかい?」
「だってだってだってーっ! 唯でさえ切羽詰ってるんだから教科書の中身なんか確かめてる暇なんてなかったのよー」
「いやま、どうしてそんな本が教科書に交じっていたのか知らないけど、見た段階で疑問すら抱かないとは……さすが麻弓。
普通の人とは勉強を始める段階で既に一味違うね。
毎時間睡眠学習に勤しんでいるだけはある。もしかしたら授業でどこをやっているかも把握していないんじゃないか?」
「え、そう? さっすが麻弓ちゃん! って感じ?」
「教科書と娯楽本の区別が付かないだけなら眼科で済んだけど、今のを誉め言葉と受け取ったなら耳鼻科にも行った方がいいよ」
「むしろ脳そのものを一度精密検査してもらった方がいいんじゃないかな?」
「んなわけないでしょーがーっ!」
麻弓が泣きながら投げてきた随分と分厚い娯楽本を樹は何の苦もなく受け止める。厳しい装丁の施された表紙には達筆な文字で仰々しく書かれあった。
『扇情電脳遊戯会社大全』と。
「麻弓」
「何よ?」
「お前、真面目に勉強する気あるのかい?」
「気だけなら全身から迸るほどにあるのですよ。それはそれはもう、訓練次第では空も飛べるほどに」
「少なくとも、ストローの包み紙に水を垂らして遊ぶ奴のセリフではないね」
「これって何度やっても飽きないのよねー」
水を滴らせながらからからと笑う麻弓に対し、樹はまた溜息を漏らした。
- 850 名前:786[sage] 投稿日:2006/01/19(木) 03:40:46 ID:Lx65mTLM
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「珍しく『勉強したいの! もう赤点なんて絶対に取りたくないから! お願い緑葉くん、手伝って?』、
て、泣きついてきたかと思えば、さっきから全然勉強なんてしてないじゃないか」
「事実とは思いっ切りかけ離れた妄想で麻弓ちゃんを陵辱するのは止めてほしいのですよ。
そもそも私は絶対にばれないカンニング方法について相談しに来たわけであって? 別に勉強しに来たわけじゃないしー」
「さてと、不振人物が犯罪教唆をしに来たと、警察に通報してくるかな」
「ああっ! 嘘! 冗談! いたいけな少女のちょっとした悪戯心だから!」
階下に立ち去ろうとした樹の足に抱きつく麻弓。
以前にも同じようなことがあり、そんなこと出来るわけがないと高を括った麻弓がやれるもんならやってみなさいよと言った数分後には、
家の前に一台のパトカーが到着していた、という前例がある。緑葉樹。口にしたことは本当に実行する男。ちなみにそのときやって来た警察は樹が言葉巧みに追い返した。
「ちなみにいたいけって言葉は幼いに気って書くんだ。とりあえず、全国のおにいちゃんたちに謝ったほうがいいと思うよ。まあ麻弓も部分的にはかなり幼いけどね」
「幼いんじゃなくて、これも一つの完成型と言ってほしいのですよ」
「その言い方だと、この前の測定ではまたもや現状維持記録を更新したみたいだね」
「ううう……バストアップ体操も牛乳も所詮、もともと素質がある人たちにしか効果ないのですよ……」
自分の胸をちらりと見てがっくりとし、ぐでーっと床に突っ伏した麻弓に苦笑すると、樹はまったく、と呟き、
「よっこいしょっと」
「うわ!? ちょっと、な、何するのよ!?」
「別に」
途端、ふわりと浮かぶ身体。
うつ伏せになっていた麻弓を仰向けにすると、お姫様だっこの要領で抱きかかえ、そのままベッドへと腰を下ろした。
「さて、それじゃあ大人しく白状してもらおうかな。麻弓=タイムは何故、緑葉樹宅を訪れたのか?」
二本の腕に支えられたまま、麻弓は恨みがましい顔で目の前にあるにやけ顔を一瞥すると、僅かに頬を朱に染めて、目を逸らしながら呟いた。
「だって緑葉くん……最近構ってくれないから」
「テストが終わるまではプライベートで会わないようにしよう、って提案しなかったっけ? それでそっちも了承した記憶があるんだけど?」
「乙女心は複雑怪奇、昨日、いえ、十秒前に言ったことだって簡単に華麗にあっという間に、百八十度変えてしまうものなのですよ」
「はい、じゃ、ちょっとここからは真面目に行こうか」
「痛っ」
いきなり、こつんと額をぶつけられる。そして額同士を密着したまま、樹は本当に珍しい、ごく一部でしか表さない表情をその端整な顔に浮かべる。
吐息もじかに当たる至近距離で見つめられ、麻弓は心の中でずるい、と呟いた。
「今回のテストでまた三枚以上赤点を取ると、流石に進級問題に関わってくるんじゃないか?」
「……うー」
- 851 名前:786[sage] 投稿日:2006/01/19(木) 03:42:12 ID:Lx65mTLM
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図星だった。二年生に進級してから既に一学期の中間、期末と合わせて赤点の数は合計七枚。
比較的赤点者に対する処置が甘い(補習にさえ出席すれば大概は免れる)バーベナ学園でも、
流石にこれまでと同じペースで赤点を取り続けたら親御さんと話をすることになるかもしれない、と担任である紅薔薇撫子に宣告されたばかりであった。
「私だって私なりにやってるのですよ。それなのにさ……二週間も会わないってのは、ちょっと酷すぎない?」
「教室じゃ毎日顔を合わせてるじゃないか」
「微妙に避けてるくせに。ちょーっと話そうとしただけで? 無言の笑顔と同時に問題集を差し出してくる所業はあんまりなのですよ」
樹の提案から二週間。付き合い始めてからというもの、登下校、学園、週末とほぼ世間一般の恋人たちと同じ生活をしていたのが、登下校と学園のみになった。
それすらも教科書やらも問 題集やらを見ることを強要されるおかげで麻弓のフラストレーションは溜まる一方。
それに加えて、
「しかも私の彼氏ってば、滅茶苦茶の前にウルトラがついて、さらにその前に超が付く程の女好きだから、不安になるなってのが無理な注文だと思うのですよ」
「だから俺様の女性に対する賛美はライフワークであって、恋愛とはまた別物だって何度も言ってるじゃないか」
「だからって普通、特定の彼女が出来たら止めるか、最低でも控えるのが常識じゃないの?」
非難の色が強くなってきた左右異なる双眸に見つめられ、樹はぽそりと呟いた。
「……元々、鈍感な幼馴染に嫉妬してもらいたいがために無垢だった少年が始めた行為の名残なんだけどね……」
「とても無垢には思えなかったけど……それに関してわあ、何度も悪かったって言ってるじゃない」
さすがにそれを本人の口から聞いたときは思考が銀河系外までぶっ飛んだけども。
「そんな周りくどいことしなくったって口で直接言えばよかったでしょー? それにぃ、手段が目的に変わっちゃ本末転倒じゃないの」
「……これ以上、非生産的な会話を続けるのも時間の無駄だね。それで、麻弓は今どうしたいんだい?」
話の流れを断ち切った樹に、麻弓は再び恨みがましい目で見つめるも、そしてまた目を逸らすようにして言った。
「とりあえず今は……キス一回で勘弁してあげる」
- 852 名前:786[sage] 投稿日:2006/01/19(木) 03:43:38 ID:Lx65mTLM
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続きは近日公開予定。
つかこの二人の純愛ムズカシスorz
果たしてエロまでいけるんだろうか。