123 名前:名無しさん@ピンキー[] 投稿日:2006/03/04(土) 02:11:27 ID:B2zJcmi9
 やっと、二人きりになれた。夕暮れ時の教室。そこで、わたし達は向かい合っていた。
「わたしは、稟くんのことが好きです。これからも好きでいいですか?」
 精一杯の勇気を振り絞りわたしは聞いた。こんなことを言っても意味がないことは分かっている。これはわたしなりのけじめだった。
「いいよ。」
「え?」
 シアちゃんはほとんどノータイムでで返事を返して来た。本当に予想外だった。怒鳴られるか殴られるかぐらいは覚悟していたのに、よりにもよってあっさり了承するなんて。
「稟くんと付き合っているんですよね?」
 稟くんとシアちゃんは一月ほど前から付き合っている。それを知らないわけではないが、聞かずには居られなかった
「うん、もちろん。ラブラブだよ☆」
 太陽のような笑顔を浮かべて、シアちゃんは言った。恋する女は輝くというのはこういうことを言うのかもしれない。
「では、どうしてこんなにあっさりと認めるんですか?」
「ん〜、だって。わたしが嫌だって言ったら、稟くんのこと嫌いになれる?」
「それは・・・」
「出来ないよね。カエちゃんの想いは簡単には変えられない。それにね、カエちゃん。むしろ、わたしは稟くんに告白して欲しいって思ってるし。」
「どっ、どうしてですか?」
「まえも言ったと思うけど、神界は一夫多妻制だから。それに、稟くんも、たぶんカエちゃんのことが好きだし。」
「もし、稟くんがわたしを受け入れちゃったら、稟くんが盗られちゃうんですよ。それでもいいんですか。」
「カエちゃん。勘違いしちゃ駄目。稟くんを奪い合うんじゃなくて、稟くんに、仲良く愛してもらうの。でも、正妻はわたしだからね。」
 正妻のところにアクセントをつけてシアちゃんは言った。
「一緒に、愛してもらお。」
「でも、わたしにはそんな資格なんか・・・」
「資格ってなに?」
「それは・・・、ごめんなさい。言えません。」
「無理に聞こうとは思わないけど、でも、それって稟くんを傷つけるかもしれないよ。」
 稟くんを傷つける?それは絶対にしてはいけない。わたしは稟くんのためだけに生きてるのに、それじゃ、わたしの生きる意味がなくなる。
「傷つけることなんてありません。わたしは稟くんを愛しています。でも、稟くんに愛してもらう資格はないです。ただそれだけなんです。」
 シアちゃんはしばらく黙って、考え込んでから、今まで、見たこと無いぐらいの真剣な表情で口を開いた。
「カエちゃん。それだと、稟くんの思いは何処に行くの?カエちゃんの言ってることって相当たち悪いよ。人ってさ、自分に好意を抱いている人に、好意を抱くの。尽く
して、媚売って、散々好きにさせた挙句、『好きにならないで』。そんなこといわれたらどうしようもなくなっちゃうよ。行き場の無い思いのつらさはカエちゃんが一番
知ってるでしょ?」
 言われて、わたしははじめて気付いた。愛せないつらさを。わたしは稟くんに抱いている想い全てを捨てろといわれれば発狂するだろう。それと同じことを強要しよう
としていた。ひどい後悔がわたしを襲う。
「でも、稟くんは誠実な人だから、わたしが告白しても首を盾に振りません。」
「大丈夫。わたしがいれば何とかなるよ。」
 親族の少女は小悪魔のような笑みを作り、軽く胸を叩いてそう言った。嫌な予感がしたがわたしはなす術も無く、シアちゃんに引きずられて、芙蓉家まで連行された。
124 名前:名無しさん@ピンキー[] 投稿日:2006/03/04(土) 02:13:45 ID:B2zJcmi9
誤字 親族=神族 
122での発言で、117とありますが、119です。
PS次回に続く。
128 名前:名無しさん@ピンキー[] 投稿日:2006/03/04(土) 22:03:25 ID:B2zJcmi9
「今日の夕食は、やけに豪華だな。」
 シアは付き合うようになってから、たまに家に来て、楓と一緒に料理を作るようになった。その場合いつもより多少豪華になるのだが、今日のこれは行き過ぎだ。
「稟くんに精力つけてもらおうと思って奮発しちゃった。ねぇ、カエちゃん」
「え、ええ。」
 机の上に並んだ料理を見渡すと、スッポンの唐揚げ、うなぎの蒲焼、レバ刺し、マムシ酒他にもいろいろあった。
「にんにくも買い込んでたけど、アレは使わなかったのか?」
「ファーストキスのとき、ニンニクの匂いがしたらだとかわいそうだと思って。」
「ちょっと、シアちゃん。」
 楓が顔を真っ赤にしてシアに突っかかる。今日の楓は少し興奮気味だ。
「どういうことだ?」
「それは、あとのお楽しみ。稟くんはいっぱい食べて元気になってね。」
「ああ。」
 こういうときのシアから、話を聞こうとしても無駄だ。俺は料理を口に運ぶことに専念した。
 自分なりに、この料理の意図を考える。精力をつけるといえば、やっぱりアレをするということ
だが、シアは今日泊まっていくと言っている。楓と俺の部屋は近いから、この家ではしないという
のが暗黙の了解のはずだし・・・。結局のところ分からない。
「俺の顔に何かついてるか?」
 食べている間、楓が俺の顔を見ているのはいつものことだが、向けられている視線が、いつもと
違うきがしたので、思わず聞いてしまった。
「いえ、何もついてませんよ。」
「そうか。」
 そこで、会話は切れて、再び食事に戻る。
 ニコニコしたシアと、俺のほうを伺いつつも目線をあわそうとしない楓。無表情に黙々と料理を
口に運ぶ俺、はたから見たらさぞかし面白い構図だろう。
 しばらくして、夕食が済んだ。
「カエちゃん、一緒にお風呂はいろっ」
「はい、シアちゃん。稟くん、お先にお風呂いただいちゃいますね。」
「ああ。」
「あっ、稟くん。あとで、カエちゃんの部屋に来てね。絶対だよ。」
「分かった。」
 俺が返事をすると、 シアは「ありがと、これは忘れ物。舐めといてね。」と言って、VC4000の
ど飴をこっちに投げて、楓と一緒に浴室に消えて言った。
 一人残された俺は無駄だとわかりつつも二人のたくらみを見破ろうと必死に思考しているのだっ
た。

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