「楓、熱いよぅ。」
リムちゃんが、潤んだ瞳で、私の顔を見あげている。
「・・・変になっちゃうよ。」
白い肌は、上気し綺麗なピンク色になり、幼い容姿にもかかわらず、女の私でさえ、くらくらしそうなほ
どの色香を放っていた。
「まさか、ここまで効き目が強いとは・・・。」
床に捨てられている、飴の包装紙を睨みながら呟く。リムちゃんは、その飴を食べてこうなった。
事の発端は、シアちゃん、いえ、稟くん、もしかしたら、私なのかもしれない。
とにかく、当面の問題は欲情したリムちゃんをどうするかだ。
「カエちゃん、今日家に来てくれる?」
放課後、机の中のものをかばんに入れいているとシアちゃんが声をかけてきた。
「ええっと・・・」
「大丈夫、カエちゃんのご主人様の許可はちゃんと得てるから。」
そう言うと、シアちゃんは、目線で稟くんに合図した。稟くんは、それに対して苦笑しながら、頷く。
「そう言うことでしたら。」
断る理由もなく、私は頷いた。基本的に稟くんの世話をする以外は暇なのだ。
「じゃっ、行こうか。」
シアちゃんと一緒に教室を出る。教室では、さっきのご主人様という言葉によって、大勢の生徒達(ほと
んどが男子生徒)によって、稟くんが、死刑の決まった公開裁判を受けていた。
「遠慮しないで入っちゃって。」
遠慮しないでといわれても、仮にも、神王の家に入るのだ緊張しないわけが無い。私はできるだけ、それ
を隠し、敷居をまたいだ。
「カエちゃん、こっち、こっち。」
「待ってください。」
シアちゃんは、緊張のあまり歩調が遅れ気味な私に構わず、どんどん先を歩いていく、私はそれを必死で
追いかけた。人様の家で、迷子になんかなったら、一生ものの恥だ。
しばらくして、それほど距離を歩いたわけではないが、体感的には結構歩いた後、シアちゃんの部屋に着
いた。和風なつくりなのに、ベッドが置いてあるのがやけに印象に残る部屋だ。
私は彼女の進めるがままに座り、机をはさんで対峙した。
「いきなり本題から入るけど、稟くんと何かあった?」
「えっと、稟くんから何か聞きました?」
質問を質問で返すのは失礼だとは思いながらも、そうせざるをえなかった。確かに、今、私達の間で、問
題が発生している。しかし、それはあまり、他人に知られたくないことに分類される。
「やっぱりあるんだ。相談してみなよ。」
シアちゃんは私の言葉から、問題が起こっていることは、察知してしまったようだ。
「・・・、その、あまり言いたくないことなんです。」
「言ってくれたら力になれるかもしれないよ。」
「気持ちは嬉しいですけど、やっぱり。」
「もし、それで駄目になって、後悔しても遅いんだからね。男と女の関係なんて、些細なことで終わっちゃ
うんだから。」
恋愛に関しては、私のほうが稟くんと付き合っているぶん経験値は上のはずなのに、なんだろうこの異様
な説得力は。私は、だんだん不安になってきた。
妙な沈黙が部屋を支配する。紅茶をすする音がやけに大きく響く、その沈黙に耐え切れなくなり、私は、
とうとう口を開いてしまった。
「そ、その、エッチのとき、いつも、稟くんが先に逝っちゃうんです。初めのうちは良かったんですけど、
二回目、三回目になると、稟くんが気にし始めて。この前、私が演技で逝っちゃたふりをしたときが致命
傷で、稟くんの自尊心を完璧に打ち砕ちゃったんです。そのときは、たいした事じゃないと思ってたんで
すけど、変に気まずい空気が出来て、最近は、顔が会ったらなんとなく、逸らすようにまでなってしまっ
たんです。」