221 名前:ネリネ×亜沙[] 投稿日:2006/03/26(日) 01:00:05 ID:sFnLkk3m
 悔しい。最近、私の胸の中はその思いで一杯だった。シアさんや楓さんが選ばれるのなら納得できた。シア
さんも、楓さんも魅力的な女性だったし、わたしは彼女らに比べて一歩踏み出すことが出来なかったのもある。
わたしが選ばれなかったのは仕方が無い。だが、その二人ではなく、よりにもよって、アレを選ぶなんて納得
出来ない。アレより劣っているなんて考えたくもない。
 そんな想いを引きずりながら、急ぎ足で教室を後にする。あの、でしゃばり女に会いたくなかったからだ。
「今帰り?」
「ええ。」
 少し出遅れたせいで、この女と遭遇してしまった。おかげで今日一日最低な気分ですごさければならない。どうしてくれる?
「あっれ〜、機嫌悪い。もしかして、放送部うまくいってない?」
「そんなことありませんよ。うまくいってます。」
 なんて頭の悪い喋り方だろう?それに、馴れ慣れし過ぎる。だいたい何、その髪型は。受け狙いのつもり?
 この女の全てが気に入らない。そもそも、放送部に入った理由は、あなたと会う時間を減らしたかったから
なんですけど。これを口に出せれば、どれだけ気持ちいいだろう。
「本当に?良かった。でも、他に何かあるってことだよね。よかったら相談してよ。」
「いえ、特に無いですよ。それでは、急いでいるので失礼しますね。」
 それだけ言って、逃げるように私はその場を去った。ああ、本当に煩わしい。殺してやろうか?その気にな
れば三秒で灰にできる。どうせばれないし、ばれても揉み消せる。しかし、稟様が悲しむのだけは避けたいし
・・・。なんだ、結局私はなにもできはしない。
222 名前:ネリネ×亜沙[] 投稿日:2006/03/26(日) 01:02:35 ID:sFnLkk3m
 放送部の活動がいつもより長引いて、部室を出た頃には、七時を越えていた。基本的に一人のときは、人通
りの少ない道を歩く。人が多い道はナンパが多くて嫌になる。こういう道は不審者がたまに出没するが、私に
とっては虫のようなものでしかない。
 ちょうど公園にさしかかった時、妙な声が聞こえた。押し殺して、それでいて妙に艶のある声。どこかで聞
いたような気がする。
「ひ、ひいっ、あっ、ああっ、うあっ、ひっ、ひっ、ひあっ、ああっ」
 脚を進めるにつれてその声は、だんだん大きくなって来る。
「あっあっあっああっ、ひっ、いっ、うっ、ああっ、やっ、は、激し、すぎるっ、や、やあっ、壊れちゃうっ
!」
 妙に聞き覚えのある声だと思えば、あの女の声だった。暗くて私の位置からは何も見えはしないが、こんな
ものを聞けば何をしているかぐらい想像がつく。
 聞きたくない。ここから逃げ出したい。そう思っているのに、なぜか足が動かない。
「亜沙。俺、もう。」
 稟様の声が聞こえてきたとき、涙が流れてきた。恋人同士だから、こういうことをするのは当たり前かもし
れない、でも、この公園でするのは許せなかった。リコリスの思い出が汚された気がした。
「ぼくも、もう……いっひゃうぅ……あっ、ああっ、はっ、い、いくっ、はあああっ!!」
 隠れてやっているとは思えない位の音量で亜沙さんは、嬌声を上げた。それが、まるで私に対するあてつけ
のように思えて、信じられないぐらい怒りが込み上げてくる。震える方を抱きしめ。私は、最後に一言を残し
て、その場を去った。
「稟様ごめんなさい。」
 聞かれないことを前提とした言葉に意味はない。しかし、これは私の決意だ。稟さまは悲しむことになるだ
ろう、それでも私は決めた。資格のない方には舞台を降りてもらうことを。

 [戻る]