冬の寒さが身を潜め、代わりとばかりに穏やかな日が増えてきた、三月も終わりに近付いたある日。
土見稟は、教室にてプリントと戦っていた。
理由は簡単だ。
期末試験最終日、稟は風邪を引いて休んでしまったのだ。
その日は世界史の試験だけしかなかった上、他の教科はクリアしていたことから、三日間の補習の後に再試験を行うことになったのだった。
無論魔王や神王が手を出さない訳がなかったが、稟自身がそれは納得しなかったし、その稟の意を尊重しようというセージ達の意見もあって、思い止まってくれたようだ。少しだけ開けられた窓から、爽やかな春風が入ってくる。
プリントの残りはあと半分と言うところで、稟は少しだけ休むことにした。
普段が騒がしすぎるぐらいに騒がしいからか、静かな中にいると気が変になりそうだ。
そして、もう一つ。
稟は未だに固定の恋人がいない。
迷っているとかじゃあない。
分からないのだ。
シア、ネリネ、楓、亜沙、プリムラ、麻弓、カレハなど、見渡せば彼の身近には美少女ばかりが揃っている上、麻弓は怪しいが他は皆慕ってくれている。
だが、稟は誰を好きか自分でも分からない。
かと言って適当に誰と決めるのは相手にも失礼だし、何より稟自身が許せないと思う。
「俺は優柔不断だよなー・・・」
ポツリと呟いた言葉は、静かに窓の外に飛び出していった。