501 名前:Tick ! Tack ! Ifルート [sage] 投稿日:2006/06/10(土) 11:30:34 ID:q7p3QRqg

「ここはね、リンが……たとえ一瞬だけでもリコリスにって、リンがそう願ってくれた結果の未来」

−森の中、再会する事の出来た少女

「ただでさえ歪んでしまっていた未来に、そんな思いが干渉して築いてしまった突然変異」

「私が、生きることを望んでしまった世界」

−ありえない筈の世界。ありえない筈の未来で

「私は実験体。何のために生まれて来たのかは分からないけど、生きるためじゃないっていうのは分かる」

「うん。私もね、本当はもっと生きたい。もっともっと、出来るならずっと生きて、稟くんと一緒に笑っていたい」

「だけどね、それ以上に私は、稟くんとリンに笑っていてほしいから。三人で一緒にいたいから」

「だから、この未来はもうおしまい」

「奇跡はいつだって一瞬。夢はいつだって一晩かぎり。綺麗サッパリ後腐れなく、煙のように消えてしまうものなんだ」

−その美しい紫の瞳に迷いは無く

「その一晩だけの魔法が許されるなら……稟くんは、この女の子を愛してくれますか」

−少女は初恋の少年に、その身を委ねた
502 名前:Tick ! Tack ! Ifルート [sage] 投稿日:2006/06/10(土) 11:31:26 ID:q7p3QRqg
「私は……リコリスは、確かに幸せでした♪」

稟に優しく語りかけるリコリス。朦朧としていた筈の意識の中届いたその言葉は、稟の耳に、頭に、身体中に、魂に、染み渡っていく。
(幸せ…でした…か)
稟はその言葉が指すその意味にとても安堵し、打ち震えるほどの歓びを感じ、そして、どうしようもなく、哀しくなった。
睡魔は相変わらず稟を侵食し、その意識を深い深い闇の奥底へと引きずり込もうとしている。
けれど、稟はそれに抗った。
理由はわからない。
ただ漠然と眠るわけにはいかないのだと何かが自分に訴えかけていた。
(…そうだ。俺は…眠っちゃいけないんだ…)
リコリスの魔法の為なのか、かつて感じた事の無いほどの眠気に稟は抗いつづける。
魔界の最高実力者、魔王フォーベシイの魔力を受け継ぐネリネのクローンであるリコリス。
人界で人族の両親の間に生まれた、魔力など持たない至って平凡な人間である稟。
リコリスの魔力に抗う事など稟には可能な事ではなかった。
だが、それでも稟は抗い続けた。
(…しっかりしやがれ、土見稟。お前は我慢強いのだけが取り柄の男だろ? 唯一の取り柄なんだぜ? ここで発揮しないでどうするんだよ…)
そう自分自身を叱咤する稟。
(…俺は、リコリスに、ネリネに……!!)
503 名前:Tick ! Tack ! Ifルート [sage] 投稿日:2006/06/10(土) 11:32:17 ID:q7p3QRqg
「稟くん………?」

稟の様子がおかしいことに気付いたリコリスが、小首を傾げて膝の上の稟に声をかける。
どこまでも他者を案じるその声に、稟は遂に睡魔をねじ伏せた。
ゆっくりと閉じていた瞼を開き、微笑む稟。
目を丸めて驚くリコリスに稟はその手を伸ばし、リコリスのやわらかな頬を優しく撫ぜる。思いよ届け、と強く、強く願って。

「リコリス…そんな哀しい事言うなよ…。幸せだったなんて、過去形で…言うなよ…」
「稟…くん……っ!!」

感極まったようにアメジストの瞳からとめどなく涙が溢れ出し、頬を撫でる稟の手を、膝の上の稟の顔を熱い雫が濡らす。
稟はゆっくりとした動作で起き上がり、リコリスの小柄な身体を胸に抱き、包み込んだ。
リコリスもまた、稟の背中に腕を回し、その胸で泣き続けた。

「…ずるいよ……稟くん…。私…決意……鈍っちゃうよぅ……っ」
「ごめんな…。…けど、俺には言わなければならないことがあったから…。それに気付いちまったから…」
「……言わなければ、ならないこと…?」
「ああ。言わなければならないことって言うか、一種の誓いってやつかな? 男としてはその辺は結構譲れないもんなんだ」
 
男って馬鹿な生き物だからさ、とおどけた風に肩を竦める稟の姿に、クスリと笑うリコリス。
少しの間一緒になって笑っていた稟がふと表情をあらためる。そしてリコリスの肩を掴み、真っ直ぐに見詰め合うと、静かに、だが万感の思いを込めて語り始めた。
リコリスと、今はリコリスの中にいるネリネ、最愛の少女達に。
504 名前:Tick ! Tack ! Ifルート [sage] 投稿日:2006/06/10(土) 11:33:14 ID:q7p3QRqg
「俺は……土見稟はネリネを愛しています。リコリスを愛しています。…だから……必ず、必ず幸せにします…。ネリネを、リコリスを…どんな時も、ずっと。過去形になんかさせない。…これが俺の…俺の全てをかけた誓いだ…」
「「あ、あ、ああぁ………っ!!!」」

稟の誓いの言葉に、震える声が二つ重なった。歓喜の涙を流し続けるリコリス。
その姿が瞬間眩いばかりの光、姿を見せ始めた太陽の輝きに照らされる。そのあまりの眩さに稟の網膜は焼かれ、目を開けていられず、手で顔を覆う。
ゆっくりと目を開いたとき、その状況に、ありえない筈の光景に稟は目を見開いた。
稟の眼前にて涙を流し続ける紫の瞳の少女。
その隣で同じように涙を流す真紅の瞳の少女。

「ネ、ネリネ……リコリス……!!」

稟のうめくような声に少女達は初めてお互いの存在に気付き、言葉を失った。

「ど、どうして…? 私がここにいるのにリンが…!?」
「リ、リコちゃん……!? どうして…!?」

しばらくの間呆然とする三人。だが直にリコリスがはっとなり、ネリネに詰めかかる。

「リン、大丈夫!? 私が自分の中にリンを感じないということは、リンの中にも私がいないということなんじゃないの!?」
「は、はい…。今まで私の中にいたリコリスを感じません…」
「じゃ、じゃあリンの身体が…!」

リコリスの言葉の意味に気付くネリネ。もともとネリネが病弱であったためリコリスはその命を融合するといった形でネリネに分け与えていたのだ。
そのリコリスがネリネの中から消えればネリネはまた病弱な身体に戻ってしまうのでは、とリコリスは危惧したのだ。
リコリスの言葉に自らの胸に手を当てて何かを確かめるように目を瞑る。

「何故かは分からないですけど…。だ、大丈夫みたい…です…」
「ど、どうして…?」
「分かりません…」
「と、とりあえず、本当に身体に異常はないんだな、ネリネ?」
「はい…リコリスがいた時と何も変わりません…。リコちゃんこそ、大丈夫ですか?」
「う、うん。私も特に異常は無いみたい…」

ネリネの問いに呆然としながらも、ネリネ同様胸に手を当て呟くリコリス。
リコリスはネリネのクローンとして生まれ、実験体として様々な処理を受け、もともと短い寿命がさらに短くなっていた。
ネリネと離れれば長く生きられないのはリコリスも同じだった。
だがネリネ、リコリス共に、今まで胸の奥、お互いを感じていた場所に何も感じず、ぽっかりと穴が開いたような感覚を感じるものの、身体そのものには何の異常も感じられない。
505 名前:Tick ! Tack ! Ifルート [sage] 投稿日:2006/06/10(土) 11:33:57 ID:q7p3QRqg
「…夢かな、これ?」
「…多分、夢じゃない、と思うんだけど…」
「ほっぺを抓ってみましょうか?」

稟がネリネを、ネリネがリコリスを、そしてリコリスが稟の頬を軽く抓み、捻ってみる。
痛い。夢じゃない。
そうしてようやく三人はこの現実を認めることにした。

「はは…奇跡…続いちゃったな…」
「稟くん…。きっと稟くんが奇跡が続く奇跡を起こしてくれたんだよ…」
「俺は何もしてないよ。大体、俺には何の力もないんだし」

リコリスの言葉に苦笑し否定する稟。だがそんな稟にネリネは大きくかぶりを振った。

「いいえ、稟さま。全て稟さまのおかげです。小さい時にリコリスを救い、バーベナ学園で出会ってから私を救い、今こうして私たちを救ってくれたのは稟さまです」

そう言って二人は見つめあい、にっこり笑って頷くと、

「「稟さま(稟くん)、愛しています!」」

稟の胸に飛び込んできた。
506 名前:Tick ! Tack ! Ifルート [sage] 投稿日:2006/06/10(土) 11:34:48 ID:q7p3QRqg
−epilogue

「ふわぁ〜〜っ! 今日の授業なんだったっけ?」

雲ひとつ無い青空の下、大あくびをつく稟。昨夜ようやく2週間もの魔界への時間旅行から帰宅したばかりで、日にちの感覚がいまいち掴めていない。
日直である楓の代わりにプリムラに起こされ芙蓉家を出たは良いが、いまいち本調子が出ない。

「…昨晩はとんでもない騒ぎだったからなあ…。あのおじさんがべろべろに酔っ払うわ、学園に脅迫電話かけるわ、プリムラがわんわん泣き出すわ」

そんなことを呟く稟が隣家である魔王邸の前に辿り付いたちょうどその時、豪華な洋風扉が開いた。

「やあ、稟ちゃん。おはよう。良い朝だねぇ!」
「おじさん、おはようございます。…昨日の今日で元気ですね?」
「いやあ、昨日は少しみっともない姿を見せてしまったねえ。普段の私ならもう少し理性的な行動をとるんだが…」
「…まあ、それでアイツが学園に通えるようになったんだから、俺もあんまり強くは言えないですけど…」

出てきたこの屋敷の主、魔王フォーベシィと笑いあう稟。

「迎えに来てくれたんだね? すぐに出てくるからちょっと待っておくれよ。……ネリネちゃん、リコリスちゃん、稟ちゃんがきたよ〜!」
「「は〜〜〜い」」

その返事と共に姿を現す少女たち。
バーベナ学園の制服に身を包んだ真紅の瞳の少女。
そして同じ制服姿、同じ顔をした紫の瞳の少女。
その後ろからはメイド服を着用した童顔の女性。

「リコちゃん、帽子が曲がってますよ。……うん、これで良し!」
「あ、ありがとうございます。セージ様…」
「リコちゃん、違うでしょう?」
「…は、はい…お母様…」
「はい、オッケーです。気をつけて行くんですよ?」
「…はいっ」

照れたように頬を染めるリコリス。そのリコリスを慈愛に満ちた視線で見つめるセージ。微笑んでいるネリネ。稟とフォーベシィはその光景に目を細める。
507 名前:Tick ! Tack ! Ifルート [sage] 投稿日:2006/06/10(土) 11:35:30 ID:q7p3QRqg
「稟さま、おはようございます」
「稟くん、おはよう」
「ああ。おはよう、ネリネ、リコリス」

稟に挨拶するネリネ、リコリス。最愛の男性に微笑みかけられ、嬉しさを隠し切れない二人の様子に、フォーベシィは瞼が熱くなるのを感じた。
魔界の最高実力者、魔王と呼ばれながらも、最愛の愛娘の身体も治す事が出来ず、娘のクローンを造ること、そしてそのクローンを犠牲にすることによって娘の身体を完治させたものの、娘はその事に負い目を感じ続けた。
何度自分の無力さに歯噛みしたか判らない。
だが目の前の少年、人族の、何の力も持たない少年が娘の心を救ってくれた。
そして今、少年は奇跡を起こし、再び娘を、もう一人の娘までをも救ってみせた。
自分がずっと望んでいたもの、娘達の心からの笑顔がすぐ側にある。

「…稟ちゃん…ありがとう」
「…どうしたんですか、いきなり?」
「リコリスのことだよ…。本当にありがとう」

何時に無く真摯なフォーベシィの様子に、稟もまた表情を引き締める。

「…昨晩も言った通り、俺は本当に何もしてませんよ。……これからするんです」
「…これから?」
「ええ。……ネリネとリコリスを幸せにします。それが俺がこれからすることです」

稟の言葉に目を見開き、次いで俯き、肩を震わせるフォーベシィ。歓喜の涙を流すネリネ、リコリス。
表情を隠したまま、魔王フォーベシィが深々と頭を下げた。

「………私の…私たちの…っ、…娘たちをっ…よろしく、頼む、よ……稟ちゃん…っ!」
「…………はい。約束します」

途切れ途切れに発せられる、くぐもったフォーベシィの言葉を受け、静かに、だが力強く答える稟。
そのまま振り返り、ネリネとリコリスの肩を抱き、行こうと促す。
背後からは嗚咽を漏らす夫を慰めるセージの声が聞こえた。
右腕をネリネに抱かれ、左腕をリコリスに抱かれた稟が学園へと続く道を歩き出す。

「ネリネ、リコリス。………幸せに、なろうな…? ずっと…ずっと一緒にさ…」
「はいっ!!」
「うんっ!!」

空はどこまでも高く続いていた。まるで彼らのこれからを祝福しているかのように…



Tick! Tack! if end
〜ネリネの花束に包まれて〜
508 名前:Tick ! Tack ! Ifルート [sage] 投稿日:2006/06/10(土) 11:43:46 ID:q7p3QRqg
以上です。

ちくたくは絶対リコリス復活のためのゲームだと思ってたのに!ハッピーエンド至上主義ならこの程度やってみせろNavelー!
と思っていたところさらに小説版ちくたくにリコリス登場しないというのを聞き、怒りが噴火し衝動的に書き上げた一品です。

ちくたくやってないとさっぱりわからない内容になっちゃって申し訳ない。
Hいれようと思ったんだけどリコリスのH時のセリフ、というか口調が以前のお姫様丼のシアとかぶることに気づいて取りやめにしました。
そろそろ駄文晒すのやめようかと思ってます。ネタも尽きたし…。

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