- 687 名前:672[sage] 投稿日:2006/07/31(月) 12:41:31 ID:376WfOOf
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とりあえず出来たんで投下します。
ジャンルは稟×ネリネ純愛ものです
- 688 名前:プレゼント[sage] 投稿日:2006/07/31(月) 12:42:52 ID:376WfOOf
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「…稟さま、今日の夜はお暇ですか?」
突然投げかけられた言葉に、土見稟は立ち止まり、目を丸くして眼前の少女を見つめた。
長い青髪に長く尖った耳、真紅の瞳を持つ小柄ながらもグラマーな美少女−彼の恋人である魔界の姫君、ネリネはいつに無く真剣な表情で稟を見つめてきていた。
何の変哲も無いいつも通りの日、いつも通りの授業を終え、帰宅の途についていた稟だったが、ネリネの方はというとそうではなかった。
−例えば朝、ネリネと一緒に登校しようと魔王邸の前で待っていた稟に気付かず、そのまま歩き去ろうとしたり。
−例えば授業中、真面目なネリネが、何度もぼうっとして教師に注意されていたり。
−例えば昼食時、シアや楓ら、周囲からの『あ〜ん』攻撃を受ける稟を気にもせずに黙々と自分の弁当をつついていたり。
などなど、流石に鈍感な稟でさえも、
(…何かあったのか? それとも俺何か機嫌損ねるような事したっけ?)
と何度も頭を捻って考えたのだが、別段特別な理由は思い浮かばなかった。
思い切って直接何かあったのかと訊ねても、
『少し考え事がありまして…』
と言葉を濁され、それ以上追求する事が出来なかった。
そんなネリネだったが、放課後になり、稟が下校に誘うとにっこり笑って頷いてくれた。
そのことに心底ホッとした稟だったが、下校途中のネリネは相変わらず押し黙り、稟の話にも上の空だった。
がっくりと肩を落とした稟が黙って歩を進め、あと数分で家に辿り付ける、といった所で突然ネリネから掛けられたのが、冒頭の台詞だった。
- 689 名前:プレゼント[sage] 投稿日:2006/07/31(月) 12:44:01 ID:376WfOOf
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ネリネのつり上がった眦の鋭さと視線の強さに思わず数歩後ずさったものの、稟はネリネの言葉への返答の為にしばし虚空を見つめ、思考を巡らせた。
「今日の夜…? いや、特に用事はないけど……?」
稟の返答に少しだけ表情を明るくしたネリネは、僅かに頬を染め上目遣いで稟に迫ってきた。
正直稟はネリネのこの“上目遣い”攻撃に大層弱かった。
「……それでは…今日の夜、私の家に……泊まりに来て下さいませんか?」
「泊まりに…? けど今日は平日だぞ? それに俺、明日日直なんだよな…。遅刻するとヤバイしなぁ…」
ネリネの言葉に戸惑う稟。
確かにネリネと恋人という関係になって以来、ネリネの家に泊まった事は何度かある。だがそれらは全て連休中や休日前などに限られていた。
泊まり=遅刻と決め付けているのは早計ではあるが、稟だって健全な若い男性である以上、愛しい恋人との同衾で何もせず朝を迎えるというのはかなり難しい、というか不可能に近いことを自覚しているのである。
ましてその恋人は、上に“超”と付けても文句はそうあがらないだろう美少女である。
だがその結果、朝早くからある日直の仕事をサボる、または遅刻などしようものならば、紅女史から放課後の補習という名の制裁をいただくことになる。
「…いけませんか…?」
「う、う〜ん…」
消極的な稟の態度に、それでもなおネリネは真紅の瞳に涙を浮かべて嘆願してくる。
“上目遣い”攻撃の上位版、“上目遣い+うるうる”攻撃である。
普段の稟であれば、この攻撃を受ければ即降参してしまうのだが、今回はいまいちネリネの真意が見えない上に、補習の恐怖が背に見え隠れするために、なかなか首を振る事が出来なかった。
「……そう、ですよね…。無理を言ってごめんなさい、稟さま。忘れてください」
そんな稟の様子に、“上目遣い”攻撃の最上級“申し訳ない表情+哀しそうに俯く”攻撃が炸裂。稟の胸中に罪悪感が広がる。
こうなると稟に残された選択肢は全面降伏しかない。
ネリネの恐ろしい所は、この一連の攻撃を意図してではなく、純粋な気持ち、つまり天然で行ってくるということである。意図したものであるならば稟もそれなりにあしらう事が出来るのだが…。
「あ、あ〜。ま、まあ、ネリネがどうしてもって言うのなら……」
「本当ですか!?」
ぽりぽりと頬を掻きながら発せられた稟の言葉に、まるで花開くかのように歓喜の表情を見せるネリネ。
瞳に浮かぶ涙は悲しみのそれから喜びのそれへと変わり、喜びのあまり稟の胸に飛び込んできた。
(それに、この笑顔が見れるんなら、な…)
稟はそう思いながら飛び込んできたネリネの身体を優しく受け止め、柔らかな髪を撫でる。
ネリネも暖かく優しい稟の手の感触にうっとりと目を細め、稟に己の身体の全てを預けるようにしなだれかかった。
(こんなに喜んで…。ネリネ、欲求不満だったのか? ……ってそんなわけないか)
胸中で湧き上がった憶測を、軽く頭を振って否定する稟。
恋人関係になって以来何度も身体を重ねている二人であったが、今でもネリネから稟を求めてくる時は顔を真っ赤に染め、
恥ずかしげに視線を彷徨わせながら稟の表情をちらちらと何度も伺い、そっと寄り添い稟の服を摘んでくる、など稟からすれば実に解りやすい方法で誘いをかけてくる。
その仕草がまた稟の琴線を絶妙にくすぐり、可愛いと思わせるのだった。
「…じゃあ、帰って着替えたらそっちに行くよ」
「はい。お待ちしています」
幾つか不可解な点は残るものの、成り行きに任せてみようと稟は楽観的に考え、ネリネの耳元で囁いた。
- 690 名前:プレゼント[sage] 投稿日:2006/07/31(月) 12:44:45 ID:376WfOOf
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その後、居候先である芙蓉家に帰宅した稟は着替えを済まし、歯磨きや寝巻きなどのお泊まり用の荷物を持って隣家である魔王邸へと向かった。
稟の訪問にネリネはとても嬉しそうで、それまでの沈んだ様子が嘘のようだった。
ネリネと一緒に勉強をし、ネリネの母セージの作った食事に舌鼓を打ち、魔王やセージらとトランプをしながら歓談するなど賑やかで楽しい時間を過ごした稟は、日付が変わる頃になってようやくネリネの自室へと向かった。
「もうこんな時間か。…どうする?」
「もう少し、もう少しだけお話しませんか、稟さま?」
「あ、ああ。いいけど…?」
ベットに腰掛け何気なく訊ねた稟に、ネリネは真剣な表情で時計を見つめるとそう提案してきた。
どこか必死さを感じさせるネリネの様子に気圧されながらも頷く稟。
時計は23時30分を指し、あと三十分ほどで日が変わることを教えてくれた。
「…そう言えば、ほんとにおじさんもセージさんも、20年前から全然変わってないよなぁ」
「…え、ええ。そうですね…」
先程までのことを思い出して苦笑する稟。だがネリネはどこか上の空で、昼間と同じような態度になってしまった。
昼間と違うのはちらちらと何度も時計を伺っていることだ。
(な、何だ!? 一体何があったんだ? 何でまた様子がおかしくなったんだ?)
混乱する稟。急速に冷めていく空気が痛かった。
稟は必死になって話題を振ってネリネの気を引こうとするのだが、ネリネは曖昧に相槌を打つだけでただ時計を凝視し続けていた。
そうこうしている間にも時計の針は刻一刻と時を刻み、あと数分で日付が変わろうとしていた。
ネリネは真剣な表情で時計を見つめていた。
稟もそんなネリネに声を掛けられず、ただ黙ってネリネとネリネの見つめる時計を眺めていた。
カチッ カチッ カチッ カチッ
静寂の中、時計の針が進む音だけが部屋に響く。
「…あと、一分…」
ネリネが呟く。真剣な表情のその中に、どこか嬉しそうな雰囲気を稟は感じ取った。
カチッ カチッ カチッ カチッ
「…あと、三十秒…」
ネリネの声がほんの少しだけ震えた。
カチッ カチッ カチッ カチッ
「十…九…八…七…」
ネリネは稟に完全に背を向け、時計の針と共にカウントを始めた。
カチッ カチッ カチッ カチッ
「六…五…四…三…」
カウントが進むにつれ声が小さくなるネリネ。
カチッ カチッ カチッ!!
「二…一………ゼロ………」
日付が変わった。
ゆっくりと振り返るネリネ。
そして嬉しくてたまらない、といった満面の笑顔を浮かべ、口を開いた。
「…稟さま!! お誕生日おめでとうございます!!!」
- 691 名前:プレゼント[sage] 投稿日:2006/07/31(月) 12:45:24 ID:376WfOOf
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「……………………へ?」
稟の返答はひどく間の抜けたものであった。
(誕生日…? 誰の…? 俺の…? そういえば、そう、だっけ…)
そう、今日は土見稟がこの世に生を受けた日だった。
だがシアやネリネらが転校してきて以来、毎日を時に楽しく、時に慌しく、まるで走り回るかのように忙しく過ごしてきた稟は自分の誕生日の事をすっかり忘れてしまっていた。
「な、なあ、ネリネ? もしかして今日のお泊りって…?」
「はい。その、稟さまのお誕生日を、誰よりも早くお祝いしたくて…」
「ま、まあ確かに、誰よりも早いよな…」
日付の変わったばかりの時計を見つめながら呟く稟。
だがネリネの気持ちに嬉しさがこみ上げてきたのか、視線を虚空に彷徨わせて赤くなった頬を掻く。
しかしそんな稟の様子とは逆に、ネリネは稟の“誰より”という言葉に俯き、沈み込んでしまった。
「…私、わがままですよね…。シアちゃんや楓さん、リムちゃん達だって稟さまをお祝いしたくて、今日授業が終わったらみんなでパーティしようねって言っていたのに…。…どうしても…我慢できなくて…誰よりも早く、稟さまに……」
「ネリネ…」
ネリネの言葉に稟はようやくネリネの様子がおかしかったことの理由に気付いた。
皆で一緒に祝うことを決めていたのに、一人抜け駆けしようとしていたことに罪悪感を感じていたのだろう。
また、稟は知らないことではあるのだが、パーティには料理上手なシア、楓、料理部の双璧である亜沙とカレハが稟のためにご馳走と特製ケーキを作る事になっていたのである。
だが卵焼き以外の料理が苦手なネリネはそれに参加する事が出来なかったのである。
その疎外感からもネリネは何か出来る事がないか悩んでいたのである。
「…ごめんなさい、シアちゃん。…ごめんなさい、楓さん。…ごめんなさい…」
シア達に向かって謝り続け、遂に泣き始めてしまうネリネ。
稟はその小柄な身体を優しく抱きしめた。
「…ネリネ、ありがとう。ネリネの気持ち、すごく嬉しいよ。そこまで俺を想ってくれたんだから」
ゆっくりと背を撫でつけ、あやすようにネリネに語りかける。
「大丈夫、みんなわかってくれるよ、きっと…」
稟の腕のなかで小さくコクリと頷くネリネ。
「それに、さ。俺の誕生日なんだから、ネリネには笑ってて欲しいな。俺の欲しいものはネリネの笑顔だからさ」
「………稟さま、ずるいです。そんなこと言われたら、私、もう泣けません…」
稟の言葉に顔を上げ、目元に浮かんだ涙を指で拭い、微笑むネリネ。
どうしてこの人はこう自分の弱いところを的確についてくるのだろう、と思う。そんな台詞を言われてしまったら逆らう事など出来はしない。
自分と言う存在が、心の底から土見稟という男性に囚われてしまっている事を改めて自覚させられるネリネだった。
- 692 名前:プレゼント[sage] 投稿日:2006/07/31(月) 12:46:02 ID:376WfOOf
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「…しっかしネリネも皆も大袈裟だよなあ。俺の誕生日なんかにパーティとか別にいいのに…」
呆れたような表情で溜息をつく稟。
子供の頃ならともかく、そこまで誕生日を嬉しがる年でなくなった現在では、少しだけ豪勢な食事と仲の良い知り合い達から一言『おめでとう』とさえ言ってくれれば充分だと思っていた。
だがそんな稟にネリネはとんでもない、といった感じでぶんぶんと首を振る。
「そんな事ありません!! 稟さまの誕生日は私達にとって、私にとって、他のどんな事よりも重要な事です!!」
「い、いや、だって…」
過剰に反応するネリネに反論しようとする稟。だがネリネは稟の言葉を聞こうともせず、稟の手を掴むと自分の胸に押し当てた。
「お、おい、ネリネ!?」
慌てる稟を視線で制し、ネリネは稟の手を胸に抱くようにしながらゆっくりと語り始めた。
「…私の鼓動を感じますか、稟さま? 稟さまが今日という日に生まれてきて下さったから、今私はここにいられます。こんなにも幸せでいられるんです」
稟の手は、ゴムマリのような柔らかで弾力のある豊かな乳房に押し返されながらも、その奥から規則正しい鼓動を確かに感じとった。
「稟さまがいらっしゃらなければ、リコちゃんは幸せな思い出一つも無いまま死ななければなりませんでした。リコちゃんの命を貰った私はずっとその事に悲しみ、苦しみ続けなければなりませんでした…」
ネリネは柔らかく微笑むと、稟に近づき、唇をそっと重ねた。
「……だから…愛しています、稟さま…。…稟さまが生まれてきて下さった今日という日のことを喜ばせて下さい…」
「…ぁ…」
触れるだけのキスを終え、離れるネリネ。
稟は広がっていくネリネとの距離に無性にさびしさを感じ、思わず声を漏らした。
「…稟さま、聞いて頂けますか? 私の歌を。いつもは色々な方々のために歌っていますけど、今は稟さまの為に、稟さまの為だけに歌いたいんです」
「…ああ、歌って欲しい。俺だけの為に…」
稟が頷き目を閉じると、ネリネも同じように目を瞑り、手をそっと胸の前で組み、歌い始めた。
天使の鐘と呼ばれる歌を−
- 693 名前:プレゼント[sage] 投稿日:2006/07/31(月) 12:46:38 ID:376WfOOf
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後から考えれば、それは数分間の出来事だった。だが稟には何十分、何時間にも感じられた。
ネリネが歌い終わっても、しばらく稟は瞳を開けることが出来なかった。稟を想う気持ちに溢れた旋律に、身体を動かす事が出来なかったのだ。
「……あ〜、その、良かったよ、ネリネ。…うん、良かった」
「はい。ありがとうございます」
自分の中の感情を上手く言葉に出来ず、ただ良かったを連呼する稟。そんな稟に微笑みながら素直にお礼の言葉を告げるネリネ。
しばらくの間、稟もネリネも何も言えず、ただ微笑みながら見詰め合う、そんな優しい静寂が二人を包んだ。
そんな静寂を破り、先に口を開いたのはネリネの方だった。
「稟さま、…実は稟さまにもう一つ受け取っていただきたいものが…あるんです」
「え、もう一つ?」
「は、はい。そ、その、できれば一度お部屋を出て欲しいんですけど…」
顔を真っ赤に染めて俯き、囁くように告げるネリネの言葉に何となくピンときた稟は半眼で呟いた。
「おじさん絡みか…?」
「は、はいぃ…。お、お嫌ですか…?」
そう言われると全く抵抗できない稟だった。
「い、いや。…その、楽しみにしてる」
「は、はい」
二人して真っ赤になりながら、稟はネリネの部屋のドアを開けて廊下に出た。
防音対策がしっかりしているために聞こえるはずなどないのだが、部屋の中から僅かな衣擦れの音が聞こえたような気がし、身体が熱くなってくるのを感じる稟。
「あ、あの、稟さま…? どうぞ…」
数分後、ネリネの言葉に稟はごくりと唾を飲み込み、再びドアを開いてネリネの部屋へと入っていった。
「……稟さま……」
耳まで真っ赤に染めて恥ずかしそうに、だがどこか期待を込めた瞳で稟を見上げてくるネリネ。
「…ネリネ…」
天女のように、二の腕や太もも、胸と股間など、身体の一部分だけを巻きつけるようにして覆う長い長い白のリボン。
そのリボンに包まれた少女が、
「…稟さま…。…私の、…ネリネの心と身体の全てを……受け取って…ください……」
稟の誕生日に贈られる最高のプレゼントだった。
- 694 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2006/07/31(月) 12:47:25 ID:376WfOOf
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とりあえず切りが良いので一旦ここで止めます。次回エロパートです。
今回はある意味公式では出来ないワザを狙ってみました。
公式で稟の誕生日が??となっているので季節感をだす単語や文章は出してません(多分)。それぞれお好きな日、季節を思い浮かべてください。
ちなみに書いてて恥ずかしさにジンマシン起きそうになりました。
ところで今回文の書き方変えてみました。
今までは台詞の前後に一行空白を入れてたんですが、今回は空白入れてません。
どっちが読みやすいですかね?
続きのエロパート部分も一応できてはいるので二三日後くらいに投下しますです。
キタイシテクレテルヒトガイルカドウカハワカランガ…