849 名前:757[sage] 投稿日:2007/03/07(水) 10:32:40 ID:Rtj/xaef
すみません遅れました。
書いているうちに話が膨らんできて結構な分量になりそうです。
とりあえず後編と言っていましたがまだ終わらなそうなので『中編』を投下します
850 名前:アニメ版アレンジ 4[sage] 投稿日:2007/03/07(水) 10:33:54 ID:Rtj/xaef
「楓……おい!楓!」
俺は何度も名前を読んだ。
しかし楓は目を覚まさない。
出血は止まらない。
不意にあの日のことが脳裏に浮かんだ。
父さんが死んだ。
母さんも死んだ。
紅葉おばさんも死んでしまった。
そして今、楓が…。

――死なせない。
あの日決めたんだ。
例え自分がどんなに辛い目に遭おうが、守ると決めた。
楓に生きて欲しかった。
楓までいなくなったら自分はもう頑張れない。そう思ったから。
今も変わらない。
楓がいない生活なんて俺には考えられない。

俺はすぐに救急車を呼んだ。
救急車が来るまでの間、応急処置を行う。
「死ぬなよ楓」
俺は楓に囁く。
「それが何なのかはまだ分からない。だけど伝えなくちゃいけないことがあるんだ」
少ししてから救急車が到着した。
車内で俺はずっと楓の手を握っていた。
851 名前:アニメ版アレンジ 5[sage] 投稿日:2007/03/07(水) 10:34:39 ID:Rtj/xaef
「……さん!」
(声が聞こえる)
「…さん!」
(うるさいな)
「…見さん!」
(楓が大変なんだよ。黙っていてくれ)
「土見さん!」
「え…」
気がつくと目の前に白衣の男がいた。
その後ろでは『手術室』と書かれたドアが半開きになっていて、俺は廊下で椅子に座っていた。
(ああ、そうか。楓が倒れて、救急車が来て、病院について、すぐに手術が……)
そこまで考えて、ようやく頭がはっきりしてきた。
「…そうだ。先生、楓は!楓はどうなったんですか!?」

医者はどこか申し訳なさそうにして
「落ち着いて聞いてください。正直…かなり危険な状態です。果たして一晩もつかどうか……」
その言葉に動揺を隠せない俺をよそに、さらに続ける。
「傷がかなり深い上に出血も酷い。出来るだけのことはしましたが……せめて強力な回復魔法を使える者がいれば…それこそ神王様に匹敵するほどの…」
医者が全て言い終わる前に俺はシアの家に電話をかけていた。
だが、
『…ツー…ツー…』
「くそっ!なんで繋がらないんだよ!」
ネリネの家にも同様に連絡がとれない。
「くそ!このままじゃ楓が…」
俺にはベッドの上で眠り続ける楓の横でうなだれる事しかできなかった。
852 名前:アニメ版アレンジ 6[sage] 投稿日:2007/03/07(水) 10:36:38 ID:Rtj/xaef
「稟ちゃん…」
声のする方に振り向くと、パジャマ姿の亜沙先輩がいた。
そうか。ここは先輩が入院してる病院だったんだ。
ゆっくりと先輩が近づいてきて俺の隣に座る。

ベッドの上の楓に目をやりながら俺に尋ねた。
「ねえ稟ちゃん…。一体楓に何があったの?」
俺はその問いに答えることなく黙っている。
「稟ちゃんが楓を傷つけるはずがないし、これは楓が自分でやったのよね?」
俺は黙り続ける。
「楓の様子がおかしいのはあの時から知ってた。だって普段の楓ならあんな事、絶対に言わないじゃない」
俺は黙り続ける。
「あの時の目は…本気でボクを憎んでいた。『私の大切な人を返して』ってね」
俺は黙り続ける。
「やっぱり今回の事もボクのせいな…」
「違います!」
思わず声を荒げて先輩の言葉を遮る。
そして一度深呼吸して落ち着いてから
「…先輩は悪くありません。俺が…俺が楓の想いを無視して、逃げていたから……楓を追い詰めてしまった」
「稟ちゃん…」

「八年前、交通事故で楓の母親が死にました。そのせいで生きる気力を失った楓に俺はこう言ったんです」
亜沙先輩は真っ直ぐに俺を見つめながら聞いていてくれた。
「『楓の親が死んだのは俺のせいなんだ』って…。そうやって楓に俺を恨ませることで生きる目的を作ろうとしたんです」
自分自身への憤りを感じてか、俺の拳は膝の上で強く握られていた。
「後先を何も考えていない、くだらない嘘でした。その嘘がずっと楓を縛りつけて、嘘に気づいた今もまだ楓を苦しめている…」
全く吐き気がする。浅はかな考えで大切な幼馴染みを…俺は……

「そっか…。それで楓は稟ちゃんのことが大好きなのに、素直になれないで一歩ひいちゃうんだね…」
そう言うと先輩は右手を大きく振りかぶった。
見覚えがある。
遊園地のデートで頬を打たれた時も同じ構えだった。
先輩の手が動き出すと、俺は思わず目を瞑った。
853 名前:アニメ版アレンジ 7[sage] 投稿日:2007/03/07(水) 10:37:56 ID:Rtj/xaef
頬に何か触れた。
手だ。
先輩の温かい手。
恐る恐る目を開くと先輩はとても、とても優しく俺に微笑みかけていた。
「でもね、素直になれていないのは稟ちゃんも同じ」
先輩は俺の頬をゆっくり撫でながら続ける。
「稟ちゃんが本当に隣にいてほしい人は誰?
 稟ちゃんが本当に守りたい人は誰?
 稟ちゃんの本当に大切な人は誰なの?」
先輩の問いかけが頭の中で何度も何度も響く。
「俺は…」
「この前のデートみたいに周りに流されちゃ駄目。稟ちゃん自身の想いを答えて」
先輩が一層真剣な表情で俺の答えを待つ。

「俺は、楓を失いたくない。ずっと一緒にいたい」

「うん!」
先輩は満足そうにとびっきりの笑顔で応えてくれた。

「でも…もう楓は……」
「強力な回復魔法だったら楓を救えるんだよね?」
「はい。でもここには術者が…」
「人工生命体ならどう?」
「魔力は文句なしでしょうが…プリムラは魔法が…」
「一応使い方は知ってるんだ」
先輩が何を言っているのか理解できない。
そんな俺を他所に先輩は手の平を楓に向けた。
「大切な人を…稟ちゃんと楓を守るため…。これでボクはお母さんに近づけるかな…」
そう言うと、先輩の体が淡く光り始めた。
「人間の体でこんなに強力な魔法を使ったら、ボクはどうなるかわからない。でも、それだけの価値がある事だよね」
「亜沙先ぱ…」
言い切る前に病室が強い光に包まれ、俺は意識を失ってしまった。
薄れていく意識の中、涙を浮かべながら微笑む亜沙先輩が見えた…気がした。
854 名前:757[sage] 投稿日:2007/03/07(水) 10:40:12 ID:Rtj/xaef
以上です。楓メインの話は内容が深く重くなりがちで書くのが難しいですorz
まあその分書いてて面白いですけどね。
では感想お待ちしてます

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