375 名前:名無し ◆85siVFU0r. [sage] 投稿日:2007/05/13(日) 02:10:44 ID:EsIAwI72
すいません、全然人の事を言えませんが投下します。
複雑に文章が絡むので理解できない可能性があります。
理解してもらえると嬉しいです。
376 名前:名無し ◆EEPaAa0RHg [sage] 投稿日:2007/05/13(日) 02:12:00 ID:EsIAwI72
決意したはずだった。
絶対に守ると決めたはずだった。
「ずっといっしょにいてね」
でもそれと似た決意は昔したはずだった。いったい何故忘れてしまったんだろう。
「うん、ずっといっしょにいるよ」



何か夢を見た気がする。とても大事な思いでの夢を。
「……り…ちゃ……稟ちゃん」
声が聞こえる…。とても優しい声が…。
稟「……あ、さ先輩?…」
朝の日差しが暖かかった。でも、どこか冷たい空気が今が冬であることを感じさせた。
亜沙「お早う、稟ちゃん♪」
稟「……おはようございます」
綺麗な緑色の髪をなびかせるいつも元気いっぱいの女性の姿が目に写った。
しかしいつもの元気な表情はなく、どこか憂いを帯びていた。
稟「どうかしたんですか、亜沙先輩?」
亜沙「え?いや、あのね、……って、まーた先輩ってつけてるじゃない!」
稟「あ」
し、しまった!寝惚けてまた言ってしまった!!
亜沙「もー…何度目よ。あれほど先輩禁止って言ったのに!」

時雨亜沙さん。俺の恋人である。
昔はショートヘアーだったのだが今はロングヘアーにしている。
俺の好みに合わせてくれたのと、こちらの方が「都合」がいいからだ。
そりゃ、いきなり知り合いの髪が延びたらびっくりするよね…。この状態だとそれ以上は伸びないからなんだけど。

稟「す、すいません。つい言っちゃうんですよね」
亜沙「もう…、一年以上付き合ってるのに直らないのね」
うあ…めちゃくちゃ呆れてる…。どうしても言っちゃうんだよぁ。癖になってるから…。
稟「出来るだけ言わないようにはしてるんですが…」
亜沙「亜沙。はい復唱!」
う、またコレですか…
稟「あ、亜沙…さん。」
亜沙さんがキッと俺を睨む、がそれも束の間すぐに笑顔に変わった。
亜沙「むう、仕方ないわね。今はそれで我慢してあげる。…でも」
稟「? でも?」
亜沙「いつかはボクを亜沙って呼んでね…?」
この人の笑顔は何て眩しいのだろうか。照れ臭そうな亜沙さんの表情にこっちまで照れてしまう。

亜沙「あ、今日は祝日だけどどこか行くの?」
稟「そうですね今日は…今日は、少し用事があります…。」
大した用事って訳じゃないけど今は一人になりたかった。

亜沙「なーんだ、つまんないのー。」
稟「すいません、また今度埋め合わせしますんで!」
亜沙「じゃあ、今度の日曜日ケーキを沢山おごってもらうからね♪」
稟「いぃ!?そんな、亜沙さん!?」
亜沙「まったねー♪稟ちゃーん!」
ほ、ホントに嵐の様な人だなぁ…。

377 名前:名無し ◆85siVFU0r. [sage 2/13] 投稿日:2007/05/13(日) 02:14:13 ID:EsIAwI72
悩むとどうしてもここに来てしまう。俺の最後の心の拠り所…。
稟「父さん、母さん…」
既に記憶は薄れ、もう遺影の凍り付いた顔しか浮かぶことのなくなった二人の墓前に立っていた。
悩んでいたのは過去の記憶と少年がした大事な約束。守ると決めたあの決意。
?「稟君かい?」
ふと聞き覚えのある声が聞こえてきた。
稟「…おじさん!」
幹夫「久し振りだね。稟君。…君もお墓参りかい?」
稟「そういうつもりじゃなかったんですけどね…。なんとなくです。」
幹夫「そうか…、私もだよ…」

奇妙な沈黙が流れる。その沈黙を破ったのはおじさんのほうだった。
幹夫「学校の方はどうだい?進路は決まったのかね?」
稟「今はまだわかりません…。一応就職するつもりなんですが…」
幹夫「そうかい。その時は少なからず私も助力するよ。」
実はまだ迷っていた。取り敢えず現実的に最良の選択なのだろうが…。
稟「そういえば楓は…、楓は進学すると言ってましたけど。」
幹夫「ああ…、君とは別の道だ。」
ズキンッと胸が痛んだ。
今まで一緒にいた幼馴染みと離れてしまうことが今感じている迷いの正体であることは分かっていた。
でも俺は…亜沙さんを選んだんだ。迷う必要ないじゃないか…。
しかし、自分の心に楔となって引っ掛かっているその影を振り払うことは出来なかった。
幹夫「プリムラちゃんは楓と同じ大学へ行きたいといってたよ。」
稟「いつもすいません、プリムラの面倒まで。俺が引き取るなんて言ってしまったばっかりに…。」
幹夫「いやぁ、いいんだ。私としては娘が出来たようで嬉しいよ。」
そう言って笑うおじさんの笑顔はどこか陰りがあるようだった。
幹夫「でも、プリムラちゃんも楓も…」
稟「?」
おじさんの表情が急に曇った。
幹夫「本当は君と一緒に大学へ行きたいと言っていたよ。」
稟「!!・・・・・でもそれは…」
本当は皆と一緒にいたかった。シアやネリネ、樹や麻弓、プリムラ、もちろん亜沙さんとも、…そして楓とも。
幹夫「稟君、君は家族なんだ。家に帰ってくる気はないのかい?」
本当は帰りたかった。皆と、家族と一緒に居たかった。でも決めてしまったから…。
稟「すいません…それだけは出来ません…」
大事な幼馴染みをこれ以上傷つけたくなかった。俺が楓にできる唯一の償い。
俺と楓の曖昧だった関係のピリオド…
幹夫「そうかい……時には遊びに来ておくれ。歓迎するよ」
稟「…はい、機会があればまた遊びに行きます」

378 名前:名無し ◆85siVFU0r. [sage 3/13] 投稿日:2007/05/13(日) 02:15:32 ID:EsIAwI72
私は稟くんの事が好きです。愛しています。
でも私は稟くんに愛されてはいけない…。そう思っていました。
「稟なんか死んじゃえばいいんだ!!」
だから、よかったんです。
稟くんが亜沙先輩を選んだことは間違いではないんですから。
「私は…自分が許せません…あの日の誓いを、こんな風にすり替えてしまっている自分が…」
でも……それでも……
私は稟くんを愛しています。



プリムラ「…楓お姉ちゃん?」
ハッと我に返るとそこには心配そうに私を見つめる私の『妹』が居ました。
楓「あ…、リムちゃん。どうかしましたか?」
プリムラ「どうって、何だか楓お姉ちゃん、辛そうな顔してた…」
ギクリ、としました。私の心を見透かされたようなそんな気分です。
楓「すこし、昔の事を思い出してたんです」
遠い昔に稟くんを傷つけてしまった記憶を…
楓「さて、今日は休日ですし久しぶりに出掛けましょう、リムちゃん?」
プリムラ「…お兄ちゃんのとこ?」
楓「!!そそそそそんなわけないですよ!稟くんの所に行ったら、その、お邪魔でしょうし…」
そう、ですよね。私が会いに行くと稟君が家から出ていった意味が無くなってしまいます。
プリムラ「それでいいの?楓お姉ちゃんは…」
理由も答えも分かっているけど、と言った感じでリムちゃんが聞いてきます。
楓「いいんです。これは稟君が望んだこと、そして私が決めたことですから」
プリムラ「お姉ちゃん…」
そんな顔しないで下さい、リムちゃん。私だって本当は…
幹夫「ただいま〜」
楓「あ、お帰りなさいお父さん」
幹夫「ん?どうしたんだい、二人とも?」
楓「何でもないですよ。あ、私買い物行ってきますね?」
プリムラ「あ…」
幹夫「ああ、いってらっしゃい」
家を逃げるように飛び出しちゃいました。
ごめんなさいリムちゃん。私はどうしても稟くんに会うわけにはいかないんです。
でも、でも…

楓「稟くんに……会いたい……」



幹夫「楓は相変わらずなんだな…」
プリムラ「本当はお姉ちゃんも稟に、お兄ちゃんに会いたいはずなのに…」
幹夫「…稟君に会ったよ。稟君もなにか悩んでいるようだった」
プリムラ「お兄ちゃんが?」
幹夫「就職する、とは言っていたが別の事で悩んでいる様だったよ」
プリムラ「私、会いに行ってくる。稟お兄ちゃんに」
幹夫「ああ、行っておいで。稟君も喜ぶだろう。もう戻っているはずだ」
プリムラ「いってきまーす!」
ぱたぱたぱた…
幹夫「ふう…、私じゃ楓を助けてあげられないのかな…紅葉…」

379 名前:名無し ◆85siVFU0r. [sage 4/13] 投稿日:2007/05/13(日) 02:16:51 ID:EsIAwI72
本当は買い物に行く必要なんてありませんでした。
ならすこし公園でも散歩して、それから買い物に行きましょう。
?「あれー、カエちゃん?」
楓「シアちゃん?じゃなくてキキョウちゃんですね。こんにちは♪」
キキョウ「相変わらずあたしとシアを見分けるのはとくいねー…まったく、お父さんに爪のアカ煎じて飲ませたいくらい」
簡単な気がするんですけど…。そんなに分からないですかね?

この娘は『キキョウ』ちゃん。私の親友のひとりです。
シアちゃんの妹だけど体はひとつ。彼女の存在を知る人はほとんどいません。
楓「今日はシアちゃんは?」
キキョウ「シア?今は眠ってるみたい」
単なる二重人格とはまた違うのですけどこの事実を知っている人間は私と稟くんくらいだそうです。
暫くの間「裏シア」の名前で呼んでいましたがそれじゃ余りにも可哀想なので私が名前をあげました。
シアちゃんが気に入っていた花の名前を。
キキョウ「聞いた?稟、就職しちゃうんだって。みんな大学に行くって言ってたからてっきり稟も行くと思ってたんだけど…」
楓「はい、知ってます…」
私のせい、なんでしょうね…。
キキョウ「楓は、どう思ってるの?稟と一緒に居たくないの?」
楓「私は…稟くんが望まないのなら…」
キキョウ「本当は…?楓は、楓自身はどう思ってるの?」
ダメです、キキョウちゃんの前だと嘘がつけません…。
楓「私は…稟くんの傍にいたい…」
この気持ちだけは、この思いだけは変わりません。この先何があろうとも。
キキョウ「なら…」



楓「ただいま」
プリムラ「お帰り、お姉ちゃん」
少し遅くなっちゃいました。外では少しですけど雪が降りだしています。
プリムラ「…稟に会ってきた。」
楓「え…?」
プリムラ「お姉ちゃんに伝言を伝えてくれって」
ドクン
楓「なんでしょう」
心臓が高鳴るのを押さえられません…。予感がしました。大事なことなんだと。
プリムラ「今夜、展望台に来てください。待ってます。…って」
ドクンドクンドクン…
楓「……リムちゃん、夕飯の仕度任せてしまっていいでしょうか?」
さっき決めたんです。もう、逃げないって。
プリムラ「…わかった。楓お姉ちゃんの分も作っとく」楓「それじゃ行ってきますね」
プリムラ「お姉ちゃん!」
楓「はい?」
プリムラ「頑張ってね!」
コクッ
小さく頷いて私は展望台への道を駆け出しました。

380 名前:名無し ◆85siVFU0r. [sage 5/13] 投稿日:2007/05/13(日) 02:18:33 ID:EsIAwI72
二人の間には大切な、とても大切な絆がある。それは分かっていたんだ。
分かっているつもりだった。
「あんたなんか…死んじゃえばいいんだ!!」
でも、ボクはそれを壊してしまった。気付かないうちに。
でも、それでも稟ちゃんはボクを選んでくれた。
「守ります、どんなことがあっても」



前にもこんなことは何度かあった。
稟「……うぅ……か…えで……」
稟ちゃんの寝言。ずっと謝っていた。楓に。
稟「…約…束………守れ……な…ごめ……ん…」
亜沙「稟ちゃん?稟ちゃん?」
稟「……あ、さ先輩?…」
あれだけ辛そうな稟ちゃんを見るのはとても耐えられなくてつい起こしちゃった。
でも、稟ちゃんも今の夢は絶対見ていたくないはず。
稟「どうかしたんですか、亜沙先輩?」
亜沙「え?いや、あのね、……って、まーた先輩ってつけてるじゃない!」
稟「あ」
だからすこし、誤魔化しちゃった。今の夢を忘れて貰うために。
でも、この癖は未だに直らないみたい。ハァ、ボクだって名前で呼んでもらいたいのに…。
でも、こういう稟ちゃんの困った顔は大好きかも♪
稟「出来るだけ言わないようにはしてるんですが…」
亜沙「亜沙。はい復唱!」
稟「あ、亜沙…さん。」
照れてる稟ちゃんもなかなか可愛いよね♪
亜沙「むう、仕方ないわね。今はそれで我慢してあげる。…でも」
稟「? でも?」
亜沙「いつかはボクを亜沙って呼んでね…?」
うわぁ、稟ちゃん顔真っ赤っ赤♪こういう顔を見るのもボクの楽しみの一つなんだよね〜♪

でも、稟ちゃんはさっきの夢が忘れられないみたい…。
亜沙「あ、今日は祝日だけどどこか行くの?」
稟「そうですね今日は…今日は、少し用事があります…。」
はあ、仕方ないなぁ。今日のところは帰りますか…。亜沙「じゃあ、今度の日曜日ケーキを沢山おごってもらうからね♪」
稟「いぃ!?そんな、亜沙さん!?」
亜沙「まったねー♪稟ちゃーん!」
稟ちゃんの悲しい顔はみたくない。だからボクは笑うんだ。
ボクが世界で一番尊敬している人みたいに…。



亜沙「ただいまー」
亜麻「あ〜♪あーちゃんおかえり〜♪あれー?りっちゃんは一緒じゃないの?」亜沙「うん…。用事があるんだって」
うー、最近稟ちゃんと一緒にいること少ないなぁ。
亜麻「えー、りっちゃん来てないんだー…つまんないな」
子供のように頬を膨らますお母さんに少し苦笑した。自分の母ながら子供みたいね…
381 名前:名無し ◆85siVFU0r. [sage 6/13] 投稿日:2007/05/13(日) 02:19:55 ID:EsIAwI72
亜沙「仕方ないよ。なんだか進路で悩んでるみたいだし…」
亜麻「りっちゃんが?あーちゃんを追っかけて大学に入るんじゃなかったの?」亜沙「その筈だったんだけど…」
楓を傷つけないために、楓と別の道を選んだ。稟ちゃんには過酷な選択だったんだと思う。
……多分稟ちゃんは楓の事好きだったって気付いてしまった。

……ボクよりも……


亜麻「…あーちゃん、どうしたの?あーちゃんが辛そうだと、お母さんも…辛いよ…」
亜沙「う、ううん!なんでもない!ボクは部屋に戻るね♪」
トタタタタ… パタン
亜麻「あーちゃん…」



ボクが稟ちゃんの隣に居ると、稟ちゃんを傷つけちゃう。
楓を苦しめてしまう。
『恋愛は好きか嫌いかだけで充分じゃないですか』
だけどね、カレハ。ボクはは稟ちゃんを、楓を不幸にしたい訳じゃないの…。
亜沙「でも、ボクはそれでも稟ちゃんの事が好き…」
涙が止まらない…。喉がカラカラで、息が苦しい。胸の奥の方が熱くて痛い…!亜沙「ふ…う……うぁ……あぁぁ……ああぁぁぁぁ…!」



コンコン…
ノックの音が聞こえる…。
どれ位泣いたのだろう。涙も乾き何時の間にやら眠ってしまっていた。
コンコン…
亜麻「あーちゃん?入っていーい?」
亜沙「お母さん?…いいよ?」
亜麻「しっつれーしまーす♪あーちゃん、ご飯まだでしょ?オニギリ作ってきたよ♪」
確かにお腹は減ってるけど食べたい気分じゃなかった。
でも、せっかくお母さんがボクのために作ってくれたから一つ食べることにした。
亜麻「美味しい?鰹節と梅干を刻んだで混ぜてみたんだ♪あとは明太子とこん…」
亜沙「お母さんは…」
亜麻「へ?」
お母さんに聞いてみたい事があった。この世で一番尊敬している人に。
亜沙「お母さんは…、お父さんが選んでくれなかったとしてもお父さんを好きになれた?」
お母さんは少し困った顔をして、答えてくれた…。
亜麻「うーん、難しい質問だね…。でも……」



プルルルル…ガチャ
亜麻「はーい、時雨です♪あーりっちゃん♪うん、ちょっと待ってね?  あーちゃん?りっちゃんからだよ♪」
亜沙「はーい、あ、稟ちゃん?……え?……うん、ボクも稟ちゃんに話したいことあったんだ」

ガチャ
亜沙「お母さん、ボクちょっと出掛けてくるね?」
亜麻「はーい♪早めに帰ってきてね?」
亜沙「いってきまーす!」

ずっと昔に決めたんだ。お母さんみたいにずっと笑っているんだって。

亜麻「…あーちゃん、ガンバレ!」

382 名前:名無し ◆85siVFU0r. [sage 7/13] 投稿日:2007/05/13(日) 02:21:13 ID:EsIAwI72
どんなに嘆いても時は戻らない。例え時計の針を戻したとしても。
ならば進むしかない。
しかし俺はその一歩を進めずにいた。



稟「ふぅ…」
俺は小さな公園の小さなベンチにもたれていた。手に持った缶コーヒーが温かい。
シア「あ、稟くん」
稟「シア?だよな…?」
シア「そうだよ♪もぉ、カエちゃんは百発百中で見抜けるのに〜」
どうやら目の前に居る神族の娘はシアのようだ。楓は、何故か見抜けるんだが…俺にはどうしても確信が持てないんだよなぁ。
稟「ご、ごめんな!俺は楓のような特技持ってないんだ。」
シア「む〜、稟くんには分かって欲しいんだけどなぁ…」
小さなベンチにチョコンと座るとシアはすい、と寄り添ってきた。
シア「…ちょっと、寒いね」
人肌恋しい、というヤツなのだろうか。寄り添う人の肩はとても暖かかった。
稟「コーヒー、いるか?」
シア「おぉ!有りがたいッス♪あ、でも稟くんの分は?」
稟「いや、いいんだ。後で買うよ」
シア「いいの?やっぱり稟くん、優しいね♪」
シアの満面の笑みに対して俺は笑顔が作れなかった…。
シア「カエちゃん…の事?」
ドキリ、とした。シアにそうと言った覚えはない。いや、他の誰にだって…。
稟「…俺ってそんなに顔に出るかな?隠してるつもりだったけど…」
シア「好きな人の事だもん。言われなくても、分かるよ…。勿論、リンちゃんも♪」
ハァ、俺ってそんなに分かりやすい性格なのか…。何かちょっとショック…。
シア「…好きなんでしょ?カエちゃんの事」
稟「………俺は一生隠し事出来ないな」
何故、何故、今頃気付いたんだろう。あんなに一緒だったのに。
稟「楓から離れて分かったんだ。なんで楓を守りたかったのか」
何故、その思いを受け止めようと考えなかったのか。
稟「俺は…楓の、事が好きだ、った」
頬に熱いものが伝う。
稟「あ、あい、つとの約束っ、守ってやれなかっ…!」
思いをもはや言葉には出来なかった…。
シア「稟くん…」
稟「ぐぅっ…うぅぅ、あ、あぁ……あぁぁ……!」
シアがそっと俺の頭を撫でてくれる。とても、優しく…
シア「……今は、泣いても大丈夫だよ…」

383 名前:名無し ◆85siVFU0r. [sage 8/13] 投稿日:2007/05/13(日) 02:22:30 ID:EsIAwI72
どれ程泣いただろうか。こんなに泣いたのは何時振りだろうか。
シア「落ち着いた?」
稟「…ありがとう。……ごめん」
涙も枯れ、いつの間にか乾いていた。
稟「恥ずかしいとこ見せちゃったな。もう、大丈夫」
シア「良かった〜♪泣いてる稟くん、ちょっと可愛かったかな?」
!!!!
稟「なっ!?は、恥ずかしいんだ!忘れてくれ!」
見られたのが麻弓や樹とかじゃなくて良かった…。生涯ネタにされそうだ。
シア「あはははっ♪恥ずかしがる稟くんもかわいいッス♪」
まあシアで良かった、かな。お陰ですっきりしたみたいだ。

稟「なあ、シア…」
シア「ん?なんスか?稟くん」
こんなこと本当はシアに聞くべきじゃないんだろうけど…聞かないと先に進めそうにないよな。
稟「俺は亜沙さんが好きだ。でも、楓も守りたい。…こんな事許されるんだろうか」
二人とも選ぶなんてこと亜沙さんが、楓が、許してくれるんだろうか。三人で居ることを認めてくれるんだろうか。
でも、シアは意とも簡単に答えてくれた。
シア「だーいじょうぶ!二人は稟くんの事が好きなんだから」
稟「でも…」
シア「二人は稟くんの事が好き。稟くんは二人の事が好き。何も問題ないッス♪」
・・・いいのか?それで?
シア「二人に聞いてみたの?」
稟「い、いや…」
シア「二人とも稟くんの言葉を、本当の気持ちを待ってる筈だよ」

実に単純なこと。聞けばいいじゃないか。二人に。言えばいいじゃないか。俺の気持ちを。
稟「ありがとう、シア。俺、二人に会ってくる!」
シア「ガンバレ!稟くん!」
グッと頷くと俺は駆け出していた。一番大切な決意を持って。



キキョウ「大丈夫かな?」
シア「大丈夫ッス!皆同じ気持ちだから…。」
キキョウ「シアは…、それでいいの?」
シア「その言葉をそっくりそのまま返すよ?私はキキョウちゃんと同じ気持ちだから」
キキョウ「そうよね。…上手くいくといいね。」
シア「上手くいくよ。きっと…」

384 名前:名無し ◆85siVFU0r. [sage 9/13] 投稿日:2007/05/13(日) 02:23:55 ID:EsIAwI72
俺は走った。斜無に走った。
稟「とにかく連絡を取らないと…うわっ!?」
?「お兄ちゃん!」
背中に飛び付いてくる小さい感触にビックリして振り向くとそこには見慣れた……
稟「うぇぇ!?白タマと黒タマ!?」
そこにあるべき人物の姿はなく、人形がまるで意思があるように引っ付いていた。
プリムラ「待ってー!お兄ちゃーん!」
後ろからプリムラが遅れて駆け寄ってきた。あぁ、魔法か…。
プリムラ「お兄ちゃん…ハァハァ…足、早い……」
稟「どうしたんだ?プリムラ。家で何かあったのか?」
息切れをするプリムラはどうにかその息を整えて
稟「お、おい、プリムラ!?」
いきなり俺に抱きついてきた。あのプリムラさん、周りの視線が痛い…
プリムラ「稟お兄ちゃん…。会いたかった…。」
稟「おいおい、学校ではちょくちょく会ってるだろ?」
そんなの関係ない、と言った様子でプリムラは俺の胸元に擦り寄ってくる。困ったなあ…。
プリムラ「帰ってきて…、楓も…お姉ちゃんも待ってる」
潤んだ瞳で、今にも泣きそうな声で喋るプリムラに出来るだけ優しく語り掛けた。
稟「そのうち帰ってくるよ。だから、もう少しだけ待っててくれ…」
少女の顔が驚きに変わる。プリムラ「ほ、んと?」
稟「ああ、約束する」
この告白が成功する保証なんて無かった。
プリムラ「絶対…だよ?」
稟「絶対だ」
でも、言わなくちゃ。今まで言えなかったことを。無くした言葉を。
稟「だから、プリムラ………」
あの日の約束をもう一度伝えたい……楓に…

385 名前:名無し ◆85siVFU0r. [sage 10/13] 投稿日:2007/05/13(日) 02:25:25 ID:EsIAwI72
その先にある未来はシャッフルされたカードを捲るように分からない。
期待と不安の混ざり合ったこのカードは果たして…

展望台が見えてくる…。ここは俺と亜沙さんの思いでの場所。
その場所を雪が少しづつ白く染め始めた。
一歩一歩踏み締めるように歩くと見慣れた緑色の長髪が揺れていた。
稟「亜沙さん…」
亜沙「遅いぞぉ稟ちゃん♪」
いつもと変わらぬ笑顔に少しだけ頬を緩めたが今からの告白を考えるとどうしても顔が強張ってしまう。
稟「大事な話があります」亜沙「……楓の事?」
稟「!!……気付いてたんですか?」
正直驚いた。亜沙さんには気付かせないでいたつもりだった。
亜沙「好きな人の事だから、ね。分かっちゃうよ」
おどけた顔でそう言う亜沙さんの顔は少しだけ悲しそうだった。
亜沙「稟ちゃん、ボクと付き合いだしてから楓を避けてたでしょ。」
稟「…よく知ってますね。元々学年も違うのに」
亜沙「元々あれだけ仲が良かったのに最近じゃろくに話しもしてない、って噂は親衛隊とか麻弓ちゃんから広がるわよ」
稟「ハハ、それもそうですね」

まあ、それも今年までと思ってたんだけど…、どうやらそれだけじゃ終わらなさそうだ。
亜沙「それに、寝言で楓にずっと謝ってた…。『約束守れなくてごめん』って」
稟「うっ、そんなことを…」
バラしてたのは自分か…。やれやれ…。
でも、ここでは終われない。今言わないと一生後悔する!
稟「亜沙さん、お願いがあります。自分でも卑怯なお願いだと思ってます。…でも聞いてもらえますか?」
亜沙「……稟ちゃんは」
稟「え…?」
亜沙「稟ちゃんはボクの事を守ってくれますか…?」
聞き覚えのある言葉、前にここで交わした大切な約束。

でも、答えは変わらない。いつまでたっても。

稟「守ります。必ず、この先何があっても」
亜沙「その気持ちはこれから先も、変わりませんか?」
稟「決まってます。この思いは生涯変わることはありません」
二度も約束を破りたくない…。もう誰かを悲しませたくない。もう誰も!
亜沙「ありがとう、稟ちゃ、ん…」
少しだけ涙ぐみながら、それでも亜沙さんは微笑んでくれた。
やっぱり、俺はこの笑顔を無くせない。俺の選択は間違ってなかったんだ…。

亜沙「ふぅ…、それじゃ稟ちゃんのお願い、聞かせてくれる?」
稟「はい…、実は俺…」
楓「稟くん!!」
386 名前:名無し ◆85siVFU0r. [sage 11/13] 投稿日:2007/05/13(日) 02:26:48 ID:EsIAwI72
稟「楓!」
見慣れた顔の幼馴染みが駆け寄ってくる。
楓「ハァハァ、遅くなって、すみません」
稟「走って来なくても良かったんだぞ?」
息を切らしながら、楓はいつもの笑顔で
楓「稟くんのためですから、ハァハァ…ふう」
しかし、この状況でこの『お願い』は言っていいものか。正直、断られたら…、いや最悪リンチなんじゃ…。
ええぃ、いつかは二人に言わなくちゃならない事だろ!迷うな、俺!
稟「楓、亜沙さん!俺は…」
楓「私は!」
俺の言葉を遮り楓は、普段の楓からは想像できないほどの声をあげた。
楓「私は稟くんの事が好きです!」
稟「楓…」
楓「私は稟くんの傍に居たい!遠くから見ているのはもう嫌なんです…!」
ポロポロと楓の頬を想いが伝っていく。
楓「ずっと、一緒に、居て…ください…」
十年以上傍に居た人が十年以上溜め込んでいたその思いを今、明かしてくれた。
俺が一度無くしてしまった約束を、まだ大事に心にしまっておいてくれた…。
これに答えなきゃ、男じゃないよな。
稟「やれやれ、言いたいこと全部言われちゃったな…」
もう一度あの日の約束を…。
稟「ずっと一緒にいるよ。ただ…」
また違う新たな決意を…
稟「恋人として傍にいてほしい…!」
楓が大粒の涙を流した。でもそれは悲しみの涙じゃない。
楓「はいっ…!喜んでっ!」
不意に楓が抱きついてきた。
稟「お、おい!楓!?」
楓「稟くん…!稟くん…!」
力一杯抱き締めてくる楓は俺に抱きついたまま離れようとはしなかった。
まったく…、プリムラみたいだな…。
亜沙「つまり、そーいう事だったんだ」
あれ?なんだか横から痛い視線が…
亜沙「じとー…」
ししし、しまった!もうひとつ解決しないといけない問題があった!というより、ここからが本題だ!
慌てて楓を引き離して俺はあの『お願い』を言う決意を固めた。

稟「亜沙さん、楓…俺は二人の女性を好きになってしまいました」
我ながら、なんて卑怯なんだろう。二人の気持ちを知っているからこそのお願い。
稟「もし良ければ、二人とも俺の恋人になってください!」

387 名前:名無し ◆85siVFU0r. [sage 12/13] 投稿日:2007/05/13(日) 02:28:07 ID:EsIAwI72
奇妙な空白の時間が流れる。俺は頭を下げたまま微動だにしなかった。
亜沙「ぷっ、あはははははっ」
稟「へ?」
行きなり笑い出す亜沙さんに顔をあげると、
亜沙「えいっ♪」
ペシィ!
稟「あいたぁ!な、何するんですか!」
返事の代わりにデコピンが飛んできた。
亜沙「今のは浮気のバツ♪相手が楓だからこのくらいにしといてあげる」
いたずらっ子の様な笑みを見せてクスクスと笑っていた。
稟「はぁ、決意が台無しじゃないですか…」
楓も笑ってるし…。やっぱり亜沙さんがいると空気が明るくなるな。
稟「…聞かせてもらえますか?答…」
亜沙「もう、聞くまでもないじゃない。」
楓「ダメなんて言うわけありません♪」
二人の笑顔が溢れる。俺が一番見たかった二人の笑顔。
稟「こんな不束者だけど、また、よろしく」
いつしか雪はやみ、辺りを街灯が照らしていた。銀の世界が光陽町中に広がっていた。
楓「こちらこそ、宜しくお願いします♪稟くん」
亜沙「不束者なんて言葉、男の子は使わないでしょ、稟ちゃん♪これからもよ・ろ・し・くっ」
バシーン!
稟「痛ぃーたぁ!その癖やめてくださいよ〜亜沙先輩ぃ〜」
ホントに手形つくんじゃないかコレ…
亜沙「ふーんだ。『先輩』つける癖を直さないとやめないからね〜」
稟「あぁ!?すすすすすいません!あ…」
亜沙「あ?」
稟「あ、亜沙…………さん」
亜沙「むー、不合格。だけど今回まで多目にみてあげる」
楓「亜沙先輩、これからも宜しくお願いします。私、負けませんから♪」
亜沙「おお、言ったなー?ボクだって負けないんだから!」
あのー二人ともーなんの勝負ですかー?やれやれ…
稟「じゃあ帰りますか。あ…亜沙、楓」
キョトンとした表情の亜沙さんが、みるみる笑顔に変わっていく。
亜沙「稟ちゃん!?今…?」
楓「亜沙先輩の事を…」
稟「何度も言いませんよ。帰ろう、亜沙、楓」
顔から火が出るほど恥ずかしいとは正にこの事。あまりの恥ずかしさに俺は後ろを向いてしまった。
亜沙「りーんちゃん♪」
楓「稟くん、こっち向いてください♪」
稟「なん…うぃぃ!?」
亜沙さんと楓が並んで目を瞑っている。これはもしや…
楓「約束の誓いをここに下さい…」
亜沙「稟ちゃん、お願い…」
稟「な、なんだか照れるな…」
俺は二人の唇に優しく唇を合わせた…

388 名前:名無し ◆85siVFU0r. [sage エピローグ] 投稿日:2007/05/13(日) 02:29:34 ID:EsIAwI72
『もしも、ボクの旦那様に好きな人が居てもボクは素直に好きだって言ったと思うよ?』

亜麻「あーちゃん?大学遅れちゃうよ?」
亜沙「大丈夫よ、お母さん。そんなに心配しなくても。」
亜麻「だってー、単位がもらえなかったら留年しちゃうんでしょ?」
亜沙「留年、か…稟ちゃんたちと同じ学年になるならそれも悪くないかも…?」
亜麻「あーちゃん!!」
亜沙「じょ、冗談よ!ジョーダン!いってきまーす!」
亜麻「もう…、いってらっしゃーい」

『ボクの旦那様も意外に鈍感だから好きだって伝えないと伝わらないから』
そうだよね…お母さん…

……


『じゃあ、好きだって伝えればいいじゃない!楓は稟が好きなんだから!』

稟「しっかしいいのかねぇ。光陽大学の入学枠を一個拡げてもらって。」
楓「流石に神王様と魔王様に言われたら断れないですよ」
稟「確かに…あの二人に詰め寄られたら嫌でもハイって言っちゃうよな」
楓「そうですね…」
シアちゃん、キキョウちゃんとリンちゃんのお陰なんですけど…
稟「でも、おかげで約束守れそうだ。新しい約束も。」
楓「はいっ、これからも一緒に居てください♪」

『稟も絶対に楓を待ってるから。楓の答を…』
そうですねキキョウちゃん…

……


『二人は稟くんの事が好き。稟くんは二人の事が好き。何も問題ないッス♪』

とにかく俺はシアたちの計らいにより大学へ進学する事になった。
とにかく臨時試験を受けてその結果次第で入学を決めてくれるらしい。
今はまだその結果待ちである。
まあ、神王のおじさんから結果は既に伝わっており俺が進学することは既に決定済みだが…。
ともかく後は卒業を迎えるだけだった。
勿論いつものメンバー全員で(麻弓は危なかったらしいが)また、お祭りのように騒がしい毎日が始まる訳だ。

『二人とも稟くんの言葉を、本当の気持ちを待ってる筈だよ』
ありがとう、シア…

シャッフルされたカードは再び俺の手元に戻ってきた。
大事な約束と共に…
389 名前:名無し ◆85siVFU0r. [sage] 投稿日:2007/05/13(日) 02:32:27 ID:EsIAwI72
終わりッス♪

きつかった…
アニメその後のお話です。楓のために作りました。
作品を壊すため文句は言われてもしかたないかも…。

 [戻る]