- 546 名前:麻弓×樹 5[sage] 投稿日:2008/07/26(土) 23:37:32 ID:BO6czDQ9
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「俺様が、麻弓のことを好きだって気持ちがさ、疑われてしまうことだよ」
そういえば、メガネをしていないこいつを見るの久しぶりだなあ、と腕が取っ払われ
た樹の顔を見て麻弓は思った。言わずもがなの現実逃避だ。悪い意味ではなく。なにほ
ざいてるのだろうかこの口は。普段あまり見せないそんな優しげな目はメガネというフ
ィルターなしには卑怯にもほどがあるぞ、と。
「いいんだ、別に。麻弓が俺様のことをどう思ってたって。少し前までみたいにどうし
ようもない女たらしとか、全世界の女性の敵だとか、まあそれは今もかもしれないけれ
ど、ぜんぜん構わないよ。そんなことを否定しても、麻弓を好きだってことの証明には
ならないだろ?」
笑みの種別を判断できるのは自慢してもいいことだ。笑っているけれど、この笑みに
込められたものの意味くらいは麻弓にだって、麻弓だからこそ麻弓にしかわからない。
それは誇りであって、麻弓が緑葉樹という人間をどれだけ知っているかのバロメーター
でもある。
「それは猜疑的な要素をもたらすかもしれないけれど、でも、どんなことがあっても、
麻弓のことが好きだっていう事実、それだけは疑われたくないんだ」
言っていることが難しすぎて、もしくは破綻しすぎていて樹の深層部分は麻弓には到
底理解できそうになかった。
けれども。
ほとんど頭突きに近かった。よく前歯同士がごっつんこしなかったな、と咄嗟に出た行
動のわりに冷静な自分をおかしく感じた。これ以上、防がずにいたら頭の中がお花畑よ
りも凄惨な状態になっていたのは間違いない。
自分が好きな人が自分を好きでいてくれているという単純明快で、けれど世界的な統
計で見たらおそらく低いのではないかと思われる奇跡的といっていい事実を突きつけら
れて平静でいられたならそいつはきっと滅茶苦茶不幸な人間だ。
口付けというにはあまりに乱暴だった。なんというか、もう食事。噛み付いて吸い付
いて飲み下して。けれどその最中も唇は決して離れずに。鼻先が擦れ合ってくすぐった
い。時折漏れる息の熱さに麻痺が重ねがけされる。最後にぺろっと鼻先を舐めると、覆
いかぶさったままの姿勢で耳元に直接吹き込んでやる。顔を合わせてられないとか、照
れ隠しではないぞと流行りのツンデレ風味で。
- 547 名前:麻弓×樹 5[sage] 投稿日:2008/07/26(土) 23:37:54 ID:BO6czDQ9
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「誓いなさいよ」と麻弓は息も絶え絶えに。
「なにを?」と軽く息を弾ませながらあくまでも樹ははぐらかす。
「さっきの、全部信じてあげるから、これから先もしちゃ駄目だからね。これは私のも
のなんだから」
ぎりりと唇を捻り上げる。
「ひたたた。乱暴だなあ。随分と一方的な所有権の表明だね」
「うるひゃい」
照れ隠しに耳朶をはむはむと甘噛んでやる。ぴちゃぴちゃと唾液に浸して舌先で弾いて。
麻弓は軽い息切れで胸を上下させると、携帯電話を取り出した。
もう、やけだ。字面にすると自棄だけど何も捨ててはいない。いやリミッターは捨て
たかもしれないけれど。
パンドラの箱もちゃちな玩具箱にしか思えない開けてビックリだった緑葉樹という男の
本音の箱。だが、多分まだ何かを隠している。言葉とともに飛び出してきたことは恐ら
く本当だろうがまだそこにあるものの正体を完全には曝していない。自分にとってそれ
が希望か絶望か。どちらでもいい。ここまで来たからには全部はいてもらおうじゃない
の。それにはこっちにも相応の覚悟がいる。受け取る側にだって、心の準備というもの
があるのだ。だから、
「もしもし、お母さん? 私、今日」
してやるさ、その覚悟を。受け止めてやろうじゃないか、本音の先にあるものを。
「友達の家に泊まるから」
麻弓は未だ自分の下にいる樹のことを睨むようにして言った。
- 548 名前:1スレ786[sage] 投稿日:2008/07/26(土) 23:41:08 ID:BO6czDQ9
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SHUFFLE! essence+が出たら書き手さん戻ってきてなおかつ増えてくれるといいなあ、と思いつつ。
保守代わりに。