740 名前:麻弓×樹 6[sage] 投稿日:2010/06/19(土) 10:14:38 ID:n9jNbzMj
 言い出したのは自分だ。ああ、認めるとも。いくらスペック低めの脳みそといえど思
い出せるさ流石に。でもねえ。

「別に構わないよ」

 どうよ、この淡白な返答は。自分がどれだけの勇気を振り絞って言った台詞か、その
ときの心情を交えながら懇切丁寧に説明してやろうか。ダイジェストで臨場感たっぷり
に。そりゃもう心臓が口から「こんにちゃーす」しそうなくらいだったんだぞ、と。顔
を赤くするとか、挙動不審になるとか、とにかくそういう初心っぽい反応を見せやがれ
ってんだ。ねえ、奥さん。どこの奥さんだよ、と手を返してノリツッコミしてみたが空
しいだけだった。
いや帰ろうかな、ほんと。徒歩三分だし。目と鼻にたとえたら寄りすぎだろって突っ込
むわ。どんなツラやっちゅーねん。
 地球は今日も自転と公転の機能をなんの滞りもなく保持しているらしかった。この辺
りの地域を太陽が照らす区域から規則通りに遠ざけていた。半日とマイナス一時間くら
いの集団日光浴を終えた住宅街は肌休みの時間に入ってほの暗く、熱源がなくなった空
気は半袖でいるにはちと肌寒い。
 右角から家家家ときて空き地を挟んだ四番目にある緑葉宅の一室。
 彼の両親が留守なことは承知していたがまさか揃って出張とは随分と都合がいいこと
で。何の力が働いているのやら。
さて、さらりと宿泊許可を下した本人はというと、

「それじゃあ色々と準備をしなくちゃね」

 と麻弓をひとり部屋に残し階下へと消えて行ったままかれこれ三十分が経過している。
あんなことがあった後に放置されるってこれ、ひょっとして、あんた何かのプレイ? 
巷で評判の放置プレイってやつですか。
ひとりでいればいるほど、つい先ほど自分のしたことが鮮明に、それこそ脳内に高性能
映写機でも設置されたかのごとくフラッシュバックして――
741 名前:麻弓×樹 6[sage] 投稿日:2010/06/19(土) 10:15:02 ID:n9jNbzMj

「えああああああ」
「もしもし警察ですか? 今、僕の部屋で見知らぬ女の子が絶叫しながら暴れているの
ですぐに来てください」
「知らない女って誰のことよーっ」
「ふむ。突っ込みどころがいい具合にずれてるね」

 抱きしめていたクッションを樹に投げる。結構な勢いで飛んできたそれを樹は半身で
ひらりとかわした。

「できたよ」
「はぁっ!? 孕ませた女ここに連れてきなさいよっ!」
「はいはい、もう麻弓がオレ様のことをどう思ってても驚きはしないって言っただろう」

 麻弓の二段飛ばしじゃ済まない飛躍を、樹はひらひらと手を振り諦めの境地に至った
眼で流す。

「食事だよ、食事。考えてみたら勉強しながらいちゃついてただけだからね。いい加
減、誰かさんの腹具合が限界だと思ったんだけれど?」
「へ?」

 ああ、確かに、そういや今日って朝から全然――

 ぐうううううううううううううううううううう、う

「うん、腹の音の大きさ選手権があったら、間違いなく上位入賞確実な大きさだった
ね。とくに、最後の一捻りなんて芸術もんだよ。どうだい麻弓、勝利者インタヴューで
もしてあげようか?」
「うう……ふぐうううう……いっそ殺してーっ」

 麻弓の絶叫が閑静な住宅街に響く。
742 名前:麻弓×樹 6[sage] 投稿日:2010/06/19(土) 10:22:40 ID:n9jNbzMj
空気読めてないよなあ、と思いつつも投下しました。
できれば近日中にまたノシ

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