376 名前:名無し ◆85siVFU0r. [sage] 投稿日:2007/07/24(火) 14:55:19 ID:SQGKXWh7
ごめ、やっとこさSS出来た…んだけど御免なさい!
先に謝ります。

三人暮らしでハチャメチャな感じにしたら三人暮らし感が出なかったorz
あと俺の中で楓カワイソス感が出てしまうので稟は一人暮らしで半同棲状態にしました。

取り敢えず投下しますね。
レスは控えてください。
377 名前:シアとキキョウの七夕1/11[sage] 投稿日:2007/07/24(火) 14:58:30
皆さん、七夕の話を知っていますか?
そうです、織姫と彦星のお話…

天帝の娘である機織りが得意な織姫と牛使いの働き者、彦星。
二人は天帝の引き合わせにより恋に落ちていきます。
ですが、恋は盲目。
織姫は機を織らなくなり、彦星は牛を使って田畑を耕さなくなってしまいました。
その事に怒った天帝は二人の間に広い天ノ川を流し二人を隔ててしまいます。
会えなくなってしまった二人は悲しみに暮れ、機を織ることも田畑を耕すことも出来なくなってしまいました。
それを見かねた天帝はまた機をちゃんと織る事と田畑を耕す事を条件に二人を一年に一度だけ会わせることにしました。
二人は一年に一度だけ天の川に架かる橋の上で再会をしています…。

稟「これが七夕の織姫と彦星のお話だ」
シア「へ〜…悲しいお話なんだ…」
キキョウ「なんだか切ないね…。稟、そのあとどうなったの?」
ん?そのあと?
そのあとも何も…これでおしまいなんだが…
稟「続きがあるとは聞いたことないなぁ…」
キキョウ「え〜!?じゃあ織姫と彦星は一年に一回しか会えないままなの〜!?」
シア「そんなのってひどい!稟くん、天帝のところに殴り込みッス!」
稟「待てぇ!これはただのお話だぞ!」



今日は七月七日、そう七夕である。
俺、土見 稟は現在一時的に芙蓉家を出て「一人暮らし」をしている。
している、筈なんだが…実際にはシアとキキョウと半同棲しているようなものだった。

稟「いや、だからな?この話みたいに神王のおじさんの怒りに触れないようにだな…」
シア「お父さんはむしろ毎日行ってこいって言ってたよ?」
…あの人は娘達を大事にしてるんだかしてないんだか…

今回俺が一人暮らしをした理由はいくつかある。そのうち大きな理由は2つある。
ひとつは今まで楓に頼りっぱなしだった家事等を自分でも出来るように改善するため。
(芙蓉家に居れば楓が全てやってしまうんだが)
もうひとつはシアとキキョウの三人の時間を作るため。勿論こちらが大事な理由である。
が、困った問題があった。
実はほぼ毎日シアとキキョウは勿論の事、麻弓や樹など友人が遊びに来る溜まり場になってしまっているのだ。

キキョウ「それとも稟はあたし達と居るのがいや、なの?」
稟「そんなことは全く断じてこれっぽっちも一欠片も絶対に無い!」
上目遣いをしながら困った表情で尋ねてくるキキョウに俺は即答した。
三人でいる時間を増やすための一人暮らしだったけど、そのせいで紅女史からは睨まれまくりだからなぁ。
378 名前:シアとキキョウの七夕2/11[sage] 投稿日:2007/07/24(火) 14:59:59
いや、何もないって言ったら嘘になって、そのゴニョゴニョ…
シア「稟くん、どうしたの?顔、真っ赤だよ?」
稟「い、いや、何でもない。何でもないんだ」
キキョウ「? 稟ってば変なの。あ、もしかして変なこと考えてた?」
稟「うぃ?!いや、ぜ全然そんなことはないぞ!?うん!」
お、恐るべし女の勘!それとも俺の顔そんなに赤かったか…?
キキョウ「……適当に言ったけど、稟、もしかして図星…?」
シア「稟くん、そういうことは、その、遠慮しなくても…いいんだよ?」
シアはモジモジと指先を絡めて顔を赤くしていた。
あれ?これはヤバい、俺まで変なスイッチ入っちゃったみたいだ…。
稟「その、ちょっとだけ…いいか?」
キキョウ「稟が…どうしてもって言うなら…」
稟「シアもいいのか?」
シアも同じく恥ずかしがりながらコクンと頷いてくれた。
シアの唇に触れるその時――

ガチャン
神王「稟殿ー!!竹採ってきたぞー!!」
玄関のドアが開き大きな竹を担いだ神王のおじさんが入ってきた。
神王「んぁ?でかすぎたか。稟殿、ちょっと手伝ってく…ん?どうしたんでぇ?」
シア「なななんでもないよ?ね、キキョウちゃん」
キキョウ「そ、そう!何でもないの!」
俺的にはタイミングを潰されてショックなんだが…

だが、神王のおじさんにはバレバレだったらしい…。
神王「稟殿…」
稟「は、はい?」
神王「早く孫の顔を見せウゴッ!ぶげっ!?」
目の前にあった神王のおじさんの首が左右交互にズレた。
シア「お父さん!恥ずかしい事言わないで!」
キキョウ「今度そんなこと言ったらシアと二人で『神王様』って呼ぶからね!?」
神王「キ、キキョウ!それだけは勘弁してくれ!」
流血で赤かったおじさんの顔がみるみる青ざめていく。
というか、赤と青が混ざり合って既に表現できない色合いだぞ……ゴクリ…
稟「ま、まあまあ二人とも。せっかく神王のおじさんが竹を採ってきてくれた訳なんだし許してあげろよ?」
俺の言葉にシアがハッとした表情を見せた
シア「そういえば私が頼んだんだよね…思いっきりやっちゃってごめんなさい、お父さん…」
ショボンとしたシアを尻目に神王のおじさんの顔が明るくなりみるみる血色が良くなっていく。
神王「いいってことよ!娘が親に気を使おうなんざ百年早ぇぞ?」
神王のおじさんは途端にいつもの豪放磊落な態度に戻っていた。
こういう立ち直りの早さは長所なのか短所なのか…
379 名前:シアとキキョウの七夕3/11[sage] 投稿日:2007/07/24(火) 15:03:27
キキョウ「全く、シアはお父さんに甘過ぎなんだから…。たまにはガツンとやらないと!」
稟「いやいや、さっきガツンとやったばかりだから」
おじさんは暴力的な娘さんをもって、よく命が今まであったな…。
神王「お、そうだ稟殿。七夕用の竹を持ってきたんだが、ちと長すぎたみてぇだ。そっち、切ってくれるか?」
そう言って神王のおじさんは鋸を俺に渡した。
稟「いいですよ。よっと…あれ?上手く切れないな…」
ギコギコ…
竹って何だかつるつる滑って切りにく…!
稟「痛っ!」
シア「稟くん!?」
キキョウ「稟!?どこか切ったの!?」
稟「いや、大した傷じゃないよ。大丈夫、鋸が少し指先にかすっただけだから」血もそんなに出てないしな。まあ、絆創膏でも貼っておこう。
神王「稟殿、治療してやるから指、こっちに出してくれ」
そうか、おじさんは仮にも「神王」なんだった。治癒魔法も得意らしいからな。
稟「あ、それならお願いし…!!!だだ大丈夫です!!問題なしです!!」
神王「なんでぇ、遠慮する必要はねえぞ?」
神王のおじさんの治療風景は過去に見たことがあった。
魔王のおじさんが指を切ったときにやっていたが、その時の方法は男の俺には耐えきれない…
シア「ダメだよ、稟くん!ちゃんと治療しないとバイ菌とか入っちゃう!」
ええ!?追い討ち!?
稟「イヤほんとに大丈夫だぞ!」
ま、まずい、このまま行くと神王のおじさんとおかしなプレイをする方向に逝ってしまう!
シア「もう、稟くん。手を出して?」
稟「シ、シア!ほんとに大丈夫…な?!」

ちゅ…

シアは俺の手を取ると怪我した指先を優しく口先に含んだ。
シア「ん……ふぅ…うん…」
稟「シ、シア!ちょっと、それは…!」
シアの舌先が傷跡にふれるのが少しこそばゆくい。
ただ、この方法だと、その、興奮してしまうんだが…。見た目的にも。
稟「シア…その、この治療法は正直…恥ずかしい、かな…」
シア「ん…ダメだよ、稟くん。ちゃんと治さなきゃ……ん…」
キキョウ「いいなぁ、シア…。 稟、今度怪我したらあたしが治療するからね♪」
む、無限ループ…!?断る前に俺が暴走してしまうだろ!

――ガチャッ
不意に玄関のドアが開き、見慣れた二人組が入ってきた。
亜沙「やっほー、稟ちゃ、ん……お邪魔だったかな…?」
カレハ「亜沙ちゃん、どうかしたん……」
これは、まずいとこを見られたな。てか、まずいな。明らかに変な勘違いをされてる…。
稟「こ、これはその違うんです!神界の治療法なんです!」
380 名前:シアとキキョウの七夕4/11[sage] 投稿日:2007/07/24(火) 15:09:35
亜沙「稟ちゃん…、そのそういう愛情表現もありだと思うけど…人目は憚った方が…」
稟「だから違うって言ってるじゃないですか!カレハ先輩もなんとか言ってくださいよ…」
本来ならカレハ先輩もこういう治療法があるのは知っているはず…はずなんだが…
カレハ「まぁ、稟さんはそんなプレイをシア様に強要して♪」
稟「し て ま せ ん !」
神王のおじさんのいる手前でそんなプレイ出来るわけないだろう…。
シア「ご、ごめんね、稟くん。でもほら、治ったよ♪」
少し名残惜しそうにシアは俺の手を離した。
さすが神王の娘と言ったところか、傷は綺麗に消えている。
稟「悪いな、シア。ありがとう」
シア「いえいえ、どういたしまして♪」
俺はお返しとばかりにシアの髪を撫でた。
シア「んっ…稟くん…」
シアの髪はさらさらとしていてさわっているこちらも気持ち良かった。
キキョウ「稟、シアばっかりズルい…」
…キキョウのそういう物欲しげな顔もズルいと思うぞ?
稟「わかったわかった、キキョウもこっちにこいよ?」
キキョウ「別に撫でて欲しい訳じゃ…」
俺はキキョウの反論に構わずに腕をとり引き寄せた。
キキョウ「うぅ…、稟って時たま物凄い強引だよね…」
稟「たまには、だからいいだろ?ほら」
シアと同じ様にキキョウの髪を撫でてやる。
キキョウ「…。まったく…稟はほんとに優しいんだから…」
強気な言葉とは裏腹にキキョウは顔を赤らめて視線を落としていた。


神王「あーコホン、いい雰囲気のところ悪いが…そろそろ、飾り付けしねぇか?」
おっと、そうだった。今日は家で七夕をするんだった。
稟「そうですね。亜沙先輩、楓たちは?」
亜沙「リムちゃんが張り切って飾りを作っちゃったらしくて少し遅くなるって」
カレハ「あら、噂をすれば…」

パタパタ…カチャ

楓「すみません、遅くなりました」
稟「おお、待ってた…ぞ?」
なんだろう、楓、と言うよりダンボール?
楓「稟くんの一人暮らしに必要そうな生活用品も家から持ってきたんですけど…」
あ、明らかに楓の頭を越えるでかい箱なんだが…
亜沙「もうこれは息子の一人暮らしを心配するお母さんね…」
稟「楓、無理しなくてもいいんだぞ?」
しかし、やはり楓の口からはいつもの言葉しか出なかった。
楓「大丈夫です、稟くんの為ですから♪皆も訪ねてくるわけですし一石二鳥です♪」
予想道理と言えばそれまでなのだが…これは俺の生活力をつけるための一人暮らしなんだが…
稟「今更、か…」
どうやら俺はまだまだ「裕福な豚」のままの様だ…。
381 名前:シアとキキョウの七夕5/11[sage] 投稿日:2007/07/24(火) 15:13:37
プリムラ「楓お姉ちゃん…早く中に入ろ……?」
ふと楓の向こうからプリムラの声が聞こえた。
しかし、姿が見えない。いや、見えるには見えるのだが…
稟「プリムラ…そんなにたくさん作ったのか?」
プリムラは自分の作った飾りと既に同化してるんじゃないかと思うほどの飾りを抱えていた。
シア「リムちゃん、すごいッス!」
楓「私も少し手伝ったんですけど殆んどリムちゃんが作っちゃいました」
プリムラ「…思ったより楽しかった…」
これだけ飾りがあれば新たに作る必要ないな。
キキョウ「じゃあ飾り付けしちゃおうか?」
亜沙「あ、でもリンちゃんと麻弓ちゃん達が来てないわよ?」
稟「確かに…樹や麻弓は遅れてもおかしくないけど、ネリネが遅くなるって珍しいな」
麻弓なんかは遅刻常習犯だし、樹は油売ってる事もあるしな。(主にナンパで)

麻弓「土見君、なんか失礼なこと考えてない?」
樹「いや、あれは絶対に失礼なこと考えてる顔だよ。間違いないね」

ギクギクンッ!

稟「ま、麻弓!樹!…いつの間に」
お、驚いた…。気付けば俺達の輪の中に麻弓と樹は溶け込んでいた。
麻弓「丁度、今着いたところよ?」
樹「稟…俺様達が遅れるのは当たり前、なんて考えてたんじゃないかい?」
… お 前 ら エ ス パ ー か
麻弓「あ〜図星なのですよ…折角皆の飲み物とか買って来たのに」
麻弓と樹の手には沢山のボトルが持たれていた。
キキョウ「うわ〜、見事にお酒だけなんだけど…」
おい、俺達は一応未成ね(ryゲフンゲフン
まあ、神王と魔王のおじさんに付き合わされたりするし飲めない訳でもないが。
神王「おぉ!お前ら気が利くじゃねぇか! んぁ?こいつは見たことねぇな……スピリ…ダ……」
ストーップ!
スピリダ…の時点で俺の脳内検索エンジンには一件しかHitしないぞ!
稟「樹!またまた何て物持ってきてんだ!」
アルコール度数96度…俺の知る最強のウォッカである。
樹「勿論罰ゲーム用♪好きなら飲んでしまっても構わないよ?」
稟「誰が飲むんだよ…」
そんなの普通に飲んだら誰か潰れるぞ。
プリムラ「大丈夫…樹か神王が飲むから…」
神王「おう!誰も飲まないってんなら喜んで飲むぞ!」
神王様、アルコール度数って知ってるんですか…?

シア「あ、稟くん。リンちゃん来たみたいだよ♪」
パタパタと足音が2つ聞こえる。ネリネと…魔王のおじさんか。
んん?なんか話し声が…
382 名前:シアとキキョウの七夕6/11[sage] 投稿日:2007/07/24(火) 15:17:26
ネリネ「お父様…、やっぱりこの格好は場違いなのでは…」
魔王「何を言うんだい。ネリネちゃんにぴったりの格好じゃないか♪」
ネリネ「そういう問題でも無いような…」
何だかおかしな会話が聞こえるな…また魔王のおじさんが変なこと吹き込んでるんじゃないか?

ガチャ
魔王「稟ちゃん、お邪魔するよ?」
稟「遅かったですね、おじさん。……あれ?ネリネはどうしたんですか?」
玄関には魔王のおじさんの姿しか見えなかった。
魔王「いや、そこに居るんだけどね。ほら、ネリネちゃん、稟ちゃんがお待ちかねだよ♪」
ネリネ「ちょ、ちょっとお父様…」
グイグイと引っ張られ奥からネリネが入ってきた。
ネリネ「し、失礼します。稟様…」
一同「!!!」
一瞬にして女性陣を含めて全員がネリネに視線を奪われた。
魔王「どうだい?稟ちゃん。ネリネちゃん織姫バージョンだよ♪」
そこには織姫を彷彿とさせるような和装のネリネが立っていた。
ネリネ「あ、あの…稟様、似合ってますか…?」
稟「……」
これはもはや似合う似合わないの次元じゃない…。綺麗とか美麗とかの次元だ!
ネリネ「稟様…?」
ハッ!しまった、つい見とれてしまった。
稟「あ、ごめん、ビックリして見とれちゃって…。よく似合ってるぞ」
シア「リンちゃんとっても綺麗ッス…」
キキョウ「ホントに…女のあたしも嫉妬しちゃうくらい…」
余りに似合いすぎていてカレハ先輩の妄想が暴走し始めてるしな…。
ネリネ「本当…ですか?」
樹「当然だよ!こんな麗しいリンちゃんに、嘘でも似合わないなんて言えるわけ無いじゃないか!」
…今回ばかりは樹に完璧に同意だな。だが…
麻弓「緑葉君がそーいうこと言うと、どうにも信用できなくなるのよね…」
稟「だな…」
そこにいるほぼ全員が麻弓の意見に無言で頷いた。
まるで装備すると信頼値のステータスが下がる呪いのアイテムみたいだ…。
樹「お、俺様、自分の意見を述べただけなのに…」
可愛そうに。
普段から節度ある行動をしておけばこうはならなかっただろうな…

神王「とにかくこれで全員揃ったな…よっしゃ、とっとと飾っちまうかぁ!」
稟「そうですね、遅くなりすぎないうちにやっちゃいましょうか」
時間をかけすぎると七月七日じゃなくなるし。
亜沙「じゃあ、手分けして作業開始〜♪」
一同「おぉ〜!」

383 名前:シアとキキョウの七夕7/11[sage] 投稿日:2007/07/24(火) 15:20:41
稟「よし、これで全部かな?」
プリムラの作ってきた飾りはこれで全部みたいだな。
カレハ「稟さん、短冊を忘れてますわ」
稟「短冊?あ、そうかそんなものもありましたね」
久し振りにこういうことやるから完全に失念してたよ。
キキョウ「稟、『たんざく』って何なの?」
稟「ん?シアとキキョウは知らないのか?」
シア「そういえば『短冊切り』は知ってるけど短冊自体は知らないッス…」
稟「料理知識のみか…」
神界には無い行事ごとだろうしな。
稟「短冊ってのは七夕の時に願い事を書いた紙を竹に吊るすんだ。そうすると願いが叶うんだと」
シア「へぇ〜、御利益があるんだ〜」
キキョウ「え?でも、何で願いが叶うの?」
稟「えっとそれはだな…。…えっと?」
あれ?なんでなんだっけ?気にしたこと無かったぞ…。
楓「元の起源は織姫と彦星がお互いに逢いたいという願いを書いたから、ですね」
稟「そうなのか?」
麻弓「つまり、その願いが叶った事にあやかりたくて真似したのが始まりってことね」
なるほど、そんな理由があったのか。今まで気にした事無かったな。
シア「じゃあ、願いが叶う訳じゃないんだね?」
ネリネ「一種のおまじないの様なものなんですね…」
神界と魔界のお姫さまたちは少しつまらなそさうにため息をついた。
キキョウ「そーなんだ。あたしはてっきり神様か何かが叶えてくれるのかと思ってた」
稟「じゃあ、あそこで既に呑みはじめてるあの神様にお願いしたらどうだ?」
魔王のおじさんと共に酒を交わし始めている神様の王に目線を向けた。

神王「おらっ、呑め呑めまー坊!」
魔王「神ちゃん、もっとペースを抑えないと稟ちゃん達の分が無くなっちゃうよ?」

麻弓「無理っぽいわね…」
シアとキキョウには悪いが、あれに願うのは多少無謀かもな…
カレハ「神王様と言えど魔法でなんでも思い通り、と言うわけにはいきませんから…」
亜沙「それもそうね。ボクたちの願いはボクたち自身で叶えなきゃ、ね?稟ちゃん♪」
それもそうか…、うん、そうだな。
稟「やっぱり神頼みってのは不健全なのかもな?」
キキョウ「確かにそうかもしれないけど…」
シア「でも、お父さんは私たちのお願い、叶えてくれたんだ…」
稟「へ?そうなのか?」
少し意外だった。普段からしてシア達の為と好き勝手にやってしまうイメージが強いからなぁ。
稟「どんなお願いしたんだ?」
384 名前:シアとキキョウの七夕8/11[sage] 投稿日:2007/07/24(火) 15:24:25
キキョウ「どんなも何も…稟は知ってるはずだよ?」
ん?俺が知ってる?
思い返してみてもそんな話は思い出せなかった。
稟「悪い、神王のおじさんにお願いをしたなんて話は聞いた覚え無いんだけど…」
キキョウは大きくため息をついて俺の顔をジト目で睨んだ。
キキョウ「ハア…、まったく稟は変なとこで勘が悪いんだから」
???
ネリネ「あっ、それなら私もお父様に願いを叶えて貰ったことになりますね」
ネリネもなのか…一体何だろう…
麻弓「じゃあ、土見君が今夜中に思い出せるかトトやるのですよ♪」
稟「いい!?」
亜沙「じゃあ…稟ちゃんならきっと思い出すに一口!」
樹「俺様は分からないに二口!ここまでヒントが出てるのに分からないのは男の恥だよ!」
い、いきなり何でこんなことになってるんだ…。なんだか不味いことになったぞ…。



俺は短冊に願いを書く時点でもシア達の言っていたことが分からず短冊の願いすら書けずにいた。
稟「うーん…」
神王のおじさんが叶えてくれた願い、か…。
楓「稟くん、書けましたか?」
稟「いや、まだ。どうにもさっきのが気になってな…」
カレハ「そういうときは一旦忘れてしまった方が思い出せるかも知れませんわ」
稟「忘れる?」
カレハ「はい♪ふとした拍子に思い出す時がありませんか?」
そういや、テストなんかでも飛ばした問題を後でふっと思い出す時あるな…。手遅れなときは多いが。
よし、短冊の願いを書く方に集中してみるか。
稟「カレハ先輩は何て書いたんです?」
カレハ「私は…『私の大切な友達が幸せでありますように』ですわ♪」
なるほど、友達思いなカレハ先輩らしい願い事だ。
稟「へぇ…亜沙先輩、思われてますね?」
亜沙「もう、カレハったら!ボクの事は気にしなくてもいいのに…」
稟「そういう亜沙先輩はなんて書いたんですか?」
亜沙「ボ、ボク!?えーとね、その…『ボクの尊敬する人の様な強い人になれますように』って…」
こちらも亜沙先輩らしいお願いだ。
稟「やっぱり亜麻さんを尊敬してるんですね」
亜沙「もっちろん♪…ただ、お願い迷ったのよね。『お母さんがもう補導されませんように』にするか…」
稟「…この前も補導されかけてましたよね…」
時雨亜麻さん…、一児の母である…。

385 名前:シアとキキョウの七夕9/11[sage] 投稿日:2007/07/24(火) 15:27:45
短冊の願いも個性的なものが沢山あった。
ただこれだけ自分の名前が出ると気恥ずかしいどころじゃないが…
『これからもずっと稟くんのお世話が出来ますように』
『稟様の為に料理が上達しますように』
『稟お兄ちゃん達と一緒に居られますように。あとネコも虎タマ達も』
『俺様の為のハーレムが出来ますように。それと稟に天罰の様にどこからともなく飛んできたライフル弾が当たりますように』
『ちょっとだけでいいから胸が成長します様に、もしくは貧乳が世界の頂点に立ちますように』


名前が無いのに誰がどんな願い事してるか丸分かりだな…、ライフル弾は飛んでこないと思うが。

そう言えばシア達は何て書いたんだろ?聞いてみるか。
稟「シア、キキョウ、短冊書けたか?」
シア「まだッス…」
人の事は言えないが遅いな…なんか悩んでるのか?
稟「願い事がありすぎて決めきらない、とかか?」
キキョウ「その逆。ほら、あたし達の夢って殆んど叶っちゃったじゃない?」
シア「だから、その、これ以上願っていいのかなぁ…ってなっちゃうんです」
稟「は?」
…拍子抜けした。願いが決まってない訳じゃないんだな。
大事なところで『他の人に』遠慮しがちなのはシアもキキョウも一緒か…。
稟「バカだな。願わなかったらその願いは誰かに取られちゃうぞ」
シア「だ、だめッス!それは絶対だめッス〜!!」
物凄い剣幕でシアが俺に詰め寄って来た。
シ、シアの顔が既に目と鼻の先なんだが…。
稟「ちょっとシア、近い…」
見慣れたとはいえこれだけ端正な顔が目の前にあると、かなり恥ずかしいし…照れてしまう…。
シア「ご、ごめんなさい」
シアはハッと気付くと慌てて俺から離れて頬を赤らめていた。
な、何だかこういうのは照れ臭いな…
俺は恐らく赤くなっているであろう自分の顔を誤魔化す為に話を続ける事にした。
稟「コホン…、つまりだ。自分の夢は願わないと絶対に叶うことはないんだ……?」
ん?シアから聞いた夢って…
稟「まさか…?」
俺の頭の中でパズルのピースが組み合わさっていくようにさっきまでの疑問が解けていく。
あぁ、だから俺が知ってるって…
キキョウ「稟?…思い出してくれたんだ」
稟「なるほど…、確かに神王のおじさんが叶えてくれたんだな」
唯一シアとキキョウだけでは出来なかった夢が一つだけあった。
稟「おじさんが願いを叶えたのはシアとキキョウに幸せになって欲しいからだよな。
  だから、いいんじゃないか?幸せは悪いことじゃないだろ?」
386 名前:シアとキキョウの七夕10/11[sage] 投稿日:2007/07/24(火) 15:30:47
シア「そっか…うん、そーだよね♪」
シアは今までの暗い顔を一変させてまるで幼い少女の様に笑顔を輝かせた。
稟「叶えてくれたお返しになると思えば、むしろ良いことだろ?」
キキョウ「お父さんが望んでくれてるなら叶えてあげないと罰当たりそうだもんね」
キキョウも同様だった。
やはりシアとキキョウには笑顔でいてほしい。
…そっか、俺の願いは…

神王「りん殿〜!たけをぉたてるぞぉ〜?」
不意に後ろから神王のおじさんの声が聞こえた…のだが、なんかおかしいぞ…?稟「おじさん、既に酔っぱらってますね…」
神王「ガハハハハでぇじょうぶだぞぉこの位ぃ。ヒック、なんか酒がまわんのが早いなぁ〜?」
おじさんの手には勿論先程のウォッカが持たれていた。既に空になっている。
そりゃ、いくら神王のおじさんでも酔っぱらうだろ…。



竹を立て終わるといつものように宴会が始まり飲めや唄えやの大騒ぎだった。
毎度の如く神王と魔王のおじさん達に飲まされるのだが、今回は違った。
神王「んがぁぁぁ…んごぉぉぉ…」
魔王「う〜ん、ネリネちゃ〜ん…ムニャムニャ」
神王と魔王のおじさんが先に酔いつぶれてしまったのだ。
お陰で殆んど飲まずに済んだな。
後は順次に酔い潰れ、結局残ったのは俺とシア、キキョウだけだった。
シア「あれ?みんな寝ちゃった?急に静かになっちゃったッスね…」
キキョウ「なんでシアは平気なのよ…。あたし達の中じゃ一番飲んでた筈なのに」
流石神王のおじさんの血筋…酒には強いな。
稟「俺達もそろそろ寝よう…っと、その前に皆に布団を掛けてやるか」
夏とはいえ油断したら風邪を引くこともあるし。
シア「は〜い♪…皆凄い寝相ッスね」
キキョウ「布団足りるかなぁ…」
一人一人個性的な個性的な寝相だな…、樹に至っては麻弓に潰されてるし。やれやれ…。

手分けして全員に布団を掛けていく途中、ふと先程の事を思い出した。
稟「そう言えば…」
シア「ん?どうしたの、稟くん」
さっきの件をどうしても確認しておきたかった。
稟「神王のおじさんが叶えてくれた願いって、『光陽町のバーベナ学園に転校する事』だったのか?」
シア「……『私とキキョウちゃんの大好きな人が居る〜』が抜けてるよ♪」
うぐっ…!恥ずかしいからそこは自分の口から言わないようにしたのに…。これはこれでやっぱり恥ずかしい…。
キキョウ「バッ、バカバカ!恥ずかしいからそこは言わないでよ!」
シア「でも、ホントの事でしょ?」
キキョウ「それは、その、そうだけど…」
キキョウは俺をチラリと見て、また視線を逸らし顔を赤らめた。
キキョウさん。その表情は完全に男殺しです…。
387 名前:シアとキキョウの七夕11/11[sage] 投稿日:2007/07/24(火) 15:34:19
稟「しかし、おじさんも無茶するよな…実際問題そんな簡単なことじゃない筈だけど」
仮にもシアは神界のお姫様。
普通に人間界で暮らすだけでも強い反発があるだろう。
キキョウ「そのあたりはリンちゃんのお父さんが解決してくれたんだよね」
シア「うん、正確には強引に押し切ってくれたんだけど。外交になるからとか色々理由を付けて♪」
稟「あの二人らしいと言うか何と言うか…」
グッスリと眠りこける二人を見ながら苦笑いをしながらも、俺はその親バカっぷりに感謝した。
シア「ホントにそう♪…お父さん、お願い聞いてくれて、ありがとう…」
シアが優しく、おじさんに毛布を掛けた。
神王「う〜ん…シア……キキョウ……」
シア「はい?」
キキョウ「お父さん、起きちゃった?」
しかし、神王のおじさんの眼は開かれていなかった。
どうやら、寝言らしい。眠ってまで娘を気にかけるなんて本当に娘思いだな。
神王「…幸せに……なれよ…zzz…」
シアとキキョウは一瞬きょとんとしたがすぐに笑顔で答えてみせた。
シア「もちろんです♪お父さんが願ってくれるなら絶対叶えるから…」
キキョウ「大丈夫だよ…稟が傍にいるから。ね?」
そこまで胸を張って言われると、こちらが尻込みしてしまう。
稟「俺は…正直、二人を幸せに出来る自信はありません」
両手に有り余る幸せを守り続ける自信はどうしても持てなかった。
シア「え…?」
キキョウ「そんな…、稟…?」
シアとキキョウの顔が曇る。でも…、

稟「だけど!」
二人にちゃんと答えないとな。

稟「 三人で幸せであろうとすることは出来る自信があります 」

これが、俺に出来る神王のおじさんやシア、キキョウに対しての最大限の誓い。
幸せは一人で作るものじゃない。皆で作るんだ。

シア「稟くん、その言い方はビックリするッス…」
キキョウ「稟ってば、そこはかとなく自信無いんだから…」
稟「や、やっぱり不満か?」
キキョウ「あたし達は不満じゃないけど…お父さんにそんな言い方したら『だけど〜』の前に殴られるよ?」
…神罰下るかもな…。純粋に痛そうな神罰が。
稟「ぜ、善処します…」
シア「そこも、稟くんらしいけどね♪」
シアは俺の顔を見ながらクスクスと笑いだす。それにつられるように俺もキキョウも笑いだした。
キキョウ「プッ、あははははは♪」
稟「ははは!ちょ、笑うなはははは!」

天ノ川が流れる空の下、俺達の笑い声だけが聞こえていた…。



―――ねえ、稟くん

ん?

なんてお願い書いたの?

…シアとキキョウと一緒だよ。

『みんなでずっと笑っていられますように』
388 名前:名無し ◆85siVFU0r. [sage] 投稿日:2007/07/24(火) 15:47:25
終わりッス♪
感想とかあればお願いします

 [戻る]