- 373 名前:名無し ◆85siVFU0r. [sage] 投稿日:2007/12/11(火) 00:02:33 ID:w/O/Hdte
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やっとSSあがりました…
長い…長すぎるよ俺のSS…
何気合い入れて13レス分作ってんだよ…
えっと過去編でとっても暗いですが出来る限りの軽さにしました。
視点の切り替わりが多くて分かりにくいかもしれませんが出来るだけ分かるようにガンガりました。
8/13位で投下を一度止めます(連投規制回避のため)
再投下はその一時間後位で考えて下さい。
レスは控えてね?
- 374 名前:追憶の二人1/13[sage] 投稿日:2007/12/11(火) 00:04:48 ID:w/O/Hdte
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ミッシングツイン、またはバニシングツインという言葉を知っているだろうか。
「消える双子」という医学用語である。
母胎の中、ある時点で片方の双子が吸収され、母親の体内から忽然と消えてしまう現象なのだが…
シア「でも、ちょっと違うのかな。あの娘の存在が消えてしまった訳じゃないから」
稟「うーん、難しいとこなんだな…」
俺は腕組みをしながら首を竦めた。
ここは、神王宅のシアの部屋。相変わらずの和風の部屋とそれに似合わないベッドがある部屋だ。
最近は暖房器具を出してきたようで部屋の真ん中に小さなこたつが置かれていた。
よくキキョウもこの部屋に居ることが多いため物が増えたような気がする。
今、そのキキョウは外出中だ。つまり、俺とシアは二人きりだった。
ミッシングツインという言葉を知ってから、シアに
「人間界で言うこの現象なんじゃないか?」と、聞いてみたところが冒頭の答えだ。
シア「でも稟くん、なんでそんな言葉知ってるの?」
稟「た、たまたま読んでた本に書いてあったんだ」
シア「うわぁ〜♪稟くんそんな難しそうな内容の本読んでるんだ〜」
どうみても漫画です。本当に(ry
うぅ、そんな尊敬の眼差しで見られるとなお辛い…。
シア「でも、本当にどういう風の吹き回し?稟くん、こういう話しは苦手っぽいのに」
そう、確かに俺は難しい話は苦手だ。でも…
稟「そういえばシア達が生まれたときの事とか全然知らないな、と思ってな…」
相手の事を知らずに「好きだ」「愛してる」なんて軽々しく言いたくなかった、というのが本音だ。
…恥ずかしくてこれは言えないけど。
稟「…だから聞かせてほしい。シア達の昔を」
シアは少し困った顔をしながら指を絡めて思案していたが
シア「キキョウちゃんが居ない内の方が話しやすいよね。うん、いいよ♪私も稟くんに話しておきたいし…」
と、言葉に含みを持たせながらも明るく返してくれた。
━━どこから話そうかな…
━━うーん…それじゃあ…
………
神王「おう、どーした?リア。こんなところに呼び出して」
俺は神王ユーストマ。
神王、といっても未だ成りたて、神王見習いと言ったところだ。
リア「うん、ちょっと大事な話をしたいなって思って…」
こいつはリア。
俺の悪友、魔殿下フォーベシィ、まあ、まー坊だな。
で、その妹で俺の妻…の一人だ。
神王「どうしたんでぇ?まー坊が遂に魔王になったか?」
リア「えーと、それはもう直ぐなんだけどそうじゃなくて…その、できちゃった…♪」
できちゃった…??
何が??
神王「?……あぁ!料理が遂に作れるようになったか!」
- 375 名前:追憶の二人2/13[sage] 投稿日:2007/12/11(火) 00:06:13 ID:w/O/Hdte
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神王「いや〜、料理なんかはからっきしだったからゴベバッ!!?」
い、いきなり側頭部からものすごいメリケンで殴られたような衝撃が…
ライラ「ゆーくん!何勘違いしてるのよ!!女の子が「できちゃった」って言ったらひとつしかないでしょ!?」
と言うより、メリケンそのものだったな…
神王「ラ、ライラ…頼むからメリケンはやめてくれって言っただろ」
アイリス「じとーーーー…」
神王「ア、アイリスまで…」
な、なんかいけねぇ事やっちまったのか?
二人はまるで射るような侮蔑の視線を俺に向けていた。
リア「あはは…♪神ちゃんらしい…神ちゃんのそんな鈍感なところもラヴかな♪」
うーん、誉められてるのか貶されてんのかわかんねぇな…。
神王「リア、俺がまどろっこしいのが苦手なのは知ってんだろう…一体全体どういう事なんだ?」
しかし、三人からの答えは無く、変わりに出てきたのは「ハァ…」という溜め息だった。
ライラ「ゆーくん…鈍感にも程があるわよ…つ・ま・り…」
リア「赤ちゃん…できちゃった…♪」
神王「…へ?」
リアの口から発せられた驚くべき言葉は耳を伝って頭に響きそのまま逆の耳から…
ストーップストーップ!通り抜けるな!
赤ちゃん!?誰の!?俺の!?つまり俺の子供?!
神王「な、な、なにぃぃぃぃぃ!??」
リア「あ、神ちゃん今、嫌そーな顔した…」
神王「違う!!………俺が、ち、父親になるってのか…」
リア「そう♪神ちゃん、お父さんになっちゃうのよ」
俺が…父親…
ライラ「しっかりしてよね?お父さん♪」
アイリス「神王ともあろう人がそんな簡単に狼狽えてたらリアちゃんのお腹の子に笑われますよ?」
……
神王「そうか…そう、なんだな…」
俺はリアの手をできるだけ優しく引いて抱き寄せた。
神王「リア……元気な子を産んでくれよ……?」
リア「ええ、もちろん…♪」
この世に、自分の一生にこれ程幸せな事があるだろうか。
俺はリアとその中に抱いた命をしっかりと、それでいて優しく抱き締めた。
━━それから暫くして双子の子供がお母さんのお腹の中に居ることが分かったの
━━お父さんも大喜びしてたんだって
━━でも…
…
- 376 名前:追憶の二人3/13[sage] 投稿日:2007/12/11(火) 00:07:21 ID:w/O/Hdte
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神王「おい…どういう事だ、そりゃ」
神官「申し上げた通りです。あなたのお子様は神族の、引いては神王の家系として相応しくありません」
『バチ…バチィッ!』
高密度の魔力がはぜる音が会議場に響き渡る。
神王「あぁ!?もういっぺん言ってみろ!!」
神官「うくっ…な、何度でも申し上げます!あなたのお子様は魔族との混血です!神王の家系としては受け入れられないのです!」
分かってはいる。でも認めることはあの子を裏切る事だ。
しかし、身体は言うことを聞いてくれない。
神官「ひぃぃぃぃ!」
神官の胸ぐらに掴みかかりその拳を降り下ろした。が…
神王「ぐ……おおおぉぉぉ!!!」
バキィィ!!
すんでのところで拳は相手の顔の横をすり抜け後ろの壁に大きなヒビを作った。
だが、壁にぶつけた憤りは虚しく響くその音と拳の痛みしか返してくれなかった。
神王「……なんだよ、そりゃぁ………!」
どうしてこういう事になっちまうんだ。
リアと俺の子は神界の為の道具じゃねーだろ?
なんで…なんで…!
ふらつく体を支えきれずに俺はドカリと椅子に腰を下ろした。
神界の後を継ぐものが神族でなければ少なからず民からの不信や反感を買う。
その隙を反神王派や魔族の鷹派が突いてこない訳がない。
また、魔界との友好関係はまー坊と関係が深い俺が居るからこそ上手く回っている。
俺が神王を辞めたとしたら、これから生まれるあの子に醜い争いを見せることになる…。
神王「……なんで俺は神王なんだろうな……」
……
稟「逃げることすら出来なかったのか………神王のおじさん、辛かったろうな…」
部屋の壁に寄りかかり薄暗くなり始めた窓の外をシアと並んで眺めていた。
シア「うん……本当に……」
シアは俺の肩に小さな頭を預けながらポツリポツリと呟いた。
そこからはシアだけでなくシアの家族の悲しみまで伝わる気がした…。
━━この後、稟くんも知ってるようにあの娘はお母さんのお腹の中で…
━━わたしと「一緒」になった
━━でもそれは…
…
神官「リア様の検査が終了致しました。母子共に健康状態に問題はありません」
神王「そうか…!あの子達の魔力性質はどうなんだ?」
俺達の子供が双子ってのは少し前に分かっていた。
後は魔力の性質が魔族寄りか、神族寄りか。
もし神族寄りなら力押しだがなんとか俺達の「家族」として認められる筈だ…!
- 377 名前:追憶の二人4/13[sage] 投稿日:2007/12/11(火) 00:08:37 ID:w/O/Hdte
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神官「一人はほぼ神族寄りの魔力を持っています。で、ですが…」
恐れていた回答がきちまったか…
神王「…魔族寄りだった……か?」
神官「…いえ、非常に信じがたい事なのですが……………リア様の中からもう一人の存在が確認…できません」
神官の口から発せられた言葉はにわかには信じがたい言葉だった。
ガタンッ!
神王「い、一体そりゃ………どういう事だ!俺の子供は双子だった筈だろ!?」
荒々しく玉座を蹴飛ばすように立ち上がると神官の元へと詰め寄った。
神官「そ、それが私達も信じられないのですが…」
確かに存在していた筈の二人目。
ついこの間の検査までは魔力も検知出来ていたらしいのだが、
今回の検査ではまるで最初から居なかったかのように消えてしまっていたというのだ。
実際には、前の検査でもう一人は魔族寄りであった事を確認していたが、俺に気苦労を懸けないように伏せていたらしい。
神官「で、ですがもう一人のお子様には全く問題ありま…」
神王「そういう問題じゃねぇ!!…………そういう問題じゃ………ねぇんだ」
なにが神王だ。自分の子供の命すら助けてやれない神なんて…情けねえ……
━━そして私は、私達は生まれた。神王の「一人娘」として生まれてきたの…。
リア「神ちゃん、この娘が私達の子供よ♪女の子♪ 私に似て可愛いでしょ?」
俺達の子供は女の子だった。
神王「…あぁ、可愛い顔してるな…」
しかし、俺は自分の娘の誕生を素直に喜べず、上手く笑うことが出来なかった。
俺は今、どんな顔をしてるだろうか…。
それとは反対にリアは変わらず笑顔であった。
リア「あり?神ちゃん、ご機嫌ナナメ?ダメだよ〜、もっと笑ってないとこの娘が泣いちゃうよ〜?ね〜?」
だぁだぁと声を上げながら笑う娘をあやしながら、リアは笑い掛けた。
でも、その笑顔には…
神王「…リア…」
リア「ん〜?どうしたの? あっ、そっか。ズバリ名前考えてるんでしょ!私も考えてたんだけど良い名前が…」
神王「リア!」
少し強い俺の口調にリアの言葉がかき消された。変わりに部屋を静寂が包んだ。
神王「……無理するな……一番辛いのはお前だって分かってる……」
リアの笑顔はいつも見ていた。だから分かる。リアがどんだけ無理して笑っているかが…
リア「…あーあ、神ちゃんまでは騙せなかったか……頑張って笑ってたんだけどなぁ」
リアは少し冗談のような態度で笑っていたが、だんだんとその笑顔は虚ろなものへと変わっていった。
リア「あの娘が消えてしまってから私、決めたの…ずっとこの娘の為に笑っていようって」
- 378 名前:追憶の二人5/13[sage] 投稿日:2007/12/11(火) 00:10:31 ID:w/O/Hdte
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リア「だから絶対にこの娘の前では泣かないと思ってたんだけどなぁ……なんで、かなぁ……」
眉をしかめながらも笑うリアの顔は今にも脆く崩れてしまいそうで、俺の眼には酷く切なく映った。
神王「…リア、お前は強い女だ。俺なんかよりずっと……だけどな、時々は俺を頼ってもバチはあたんねぇ……だからよ…」
そっと溢れそうなその瞳を、娘の前では強くあろうとするその瞳を手で覆った。
神王「…無理するな」
俺は、自分の子供の一人も救えない無様な王だ。起こってしまった事を変えることも出来ない。
今の俺にはリアの悲しみを受け止める事しか、出来ねぇんだ。
リア「…神ちゃん、カッコつけすぎだよ。もう…あはは……どうして、なのか…なぁ?」
手に熱いものが伝うのが分かった。それは、俺の手を伝い、リアの胸元に落ちていく。
リア「どう、して……あの子…助けて…あげられなかっ、たの……かなぁ……」
その流れは止めどなく、その雫は落ちていく。限り無く落ちていく。
リア「……ホントは……助けてあげたかったよぉ………!」
……
…
リア、この娘の名前決めたぞ
ホントに?…どんな名前?
『リシアンサス』… 希望って意味だ 俺達とあの娘の…希望だ
……
━━それからお父さんとお母さん達はあの娘の事を私に悟られないようにしてきた
━━お父さんが私にとっても優しいのはあの娘への贖罪の意味もあったのかもしれない、のかな
シア「まあ、ちょっとそれが過ぎることもありますけど…あはは…」
シアは現在の神王のおじさんを思い浮かべたんだろう、少し困ったような顔をしながら乾いた笑いを溢した。
禀「…あの人、娘に対しては激甘だからなぁ」
神王のおじさんは物凄くシアに対して甘い。
それはキキョウに注がれるはずだった愛情の現れなのかもしれないな。
まあ、シアの言うように行き過ぎる事が多々あるが。
シア「……それから私はずっと家族のみんなと一緒に楽しく暮らしてきた」
懐かしいことを思い出したのか、シアはどこか遠くを見つめていた。そう、まるで…
シア「お父さん、お母さん達、私、そして…」
そこに、あの頃の「二人」が居るかのように。
━━そして、あの子。キキョウちゃんが、居たんだ
━━あれは…何歳くらいのときだったのかな?
…
シア「はぁ…つまんないなぁ…」
王宮ってどこに行こうとしても誰かついて来ちゃうんだよね…。
私の部屋なら誰も入ってこないけど、でもでも!それじゃ誰も一緒に遊べない!
- 379 名前:追憶の二人6/13[sage] 投稿日:2007/12/11(火) 00:11:48 ID:w/O/Hdte
-
シア「街の方に行ったらすっごい楽しそうなんだけどなぁ」
ネリネちゃんの他にもお友達できると思うんだけど、勝手に一人で出てったらダメって言われてるしなぁ。
この部屋にあるおっきな鏡には、小さな私が写ってた。
シア「私がもう一人いたら色んなことしてたくさん遊べるよね」
鏡の向こうの自分に笑いかけた、つもりだった。
シア「あ、あれ?」
なんだろ?おかしいな、私の顔、あんな感じだっけな?
鏡の向こうの「私」が手を振って笑ってた。
?「ヤッホー♪」
「向こう」に見えるのは私…じゃない?
シア「あなたは…だぁれ?」
?「あたし?あたしは…あなた、なのかなぁ?よく分かんない」
……???
よく分からないけど、悪い子じゃないみたい。
シア「ねぇ、こっちに来れないの?」
?「来れない?あたしはここにいるよ?」
目の前で私の手が振られた。
その時、私は分かった。鏡の向こうのあたしは私なんだ。
?「へっへへー♪やっと分かったかなー?」
シア「な、なんだかふしぎな感じ…」
私なんだけど私じゃない……あれ?じゃあここに居るのはどっち?
シア「えーと、あなたがわたしでわたしがあなたで???」
や、やっぱり分かんないかも…
?「それよりさ、遊んでみない?せっかく二人なんだし♪」
その提案は私のごちゃごちゃになった頭の中を全て吹き飛ばしてくれた。
シア「う、うんっ♪えーと、えーと、それじゃあ…」
━━それから、私達は一緒に沢山遊んだの
━━ずっと二人で…
━━でも、ある日聞いちゃったんだ。それで…分かっちゃった
━━ずっと一緒じゃ居られないって…
神王「本当なのか…!?シアの魔力が不安定なのは気付いてたが…」
お父さんの声だ。でも、なんだか少しいつもの声とは違う気がする。
リア「うん…、あの娘は…生きてる……!」
お母さんも一緒みたい。なんの話なんだろ?
神王「そうか…生きて……産まれて来てくれていたのか…!」
お父さんもお母さんも、何だか泣いてるみたいな声…
シア「おと…」
神王「…だが、それは……あの娘を神王の娘として認められなくなっちまう…」リア「どうしても…ダメなの…?」
神王「あの娘は殆んど神族のシアとは違って魔力的にはほぼ魔族…。恐らく魔族の血も濃いだろう」
お父さんは机に肘をついて両手を強く握り締めてた。
遠くの影から覗いてたけど赤い線が肘に伝って行くのが見えた。
神王「俺が神王として選択するなら……あの子をずっと神王の娘として…俺の娘としておいてやる事は出来ない…!」
リア「神ちゃん…」
- 380 名前:追憶の二人7/13[sage] 投稿日:2007/12/11(火) 00:13:50 ID:w/O/Hdte
-
嘘…嘘だよね?
私がお父さんの側にいたらいけな…………
……っ!
ガタッ
わたしは逃げるようにそこから駆け出してた。
廊下にあった何かを蹴飛ばした気がしたけどそれもよく分かんなった。
私は走った。いつもは走っちゃダメって言われてる王宮の廊下を。
どうしようもなく怖くって。どうしようもなく悲しくって…。
聞いてはいけないこと。見てはいけないものを見たんだ、そう思った。
…
シア「…うう、うぅ……ヒック……ヒック…」
いつの間にか私は王宮の大きな中庭の小さな薔薇園の中にいた。
今は夜だから中庭には誰も居なかった。その真ん中に私はへたりこんでずっと泣いてた。
?「…泣かないで…シア…」
シア「え…?…ヒック」
誰もいない中庭で私に似た小さな声が聞こえた。
?「何だか…あたしが居るとシアが困る、みたいだよね…」
シア「ち、違うよ!そんな事ない!お父さんの言ってることは何かの間違い、間違いのハズだよ!」
でも、私もあの娘も気付いてた。どうしようも無いことなんだって。
?「大丈夫…シアは、私が守ってあげるから」
シア「え……?」
?「あたしが居なくなればシアはここに居てもいいんでしょ?」
シア「ダメだよ!どっか行っちゃヤだ! 側に…居て…!」
でも、あの娘の気持ちは変えられなかった。
?「でも、あたしがこのまま『ココ』に居たら…シアもここに居られないんだよ?」
シア「それは……」
私はお父さんもお母さん達も大好きだから、ここに…居たい…
でも…!
?「だーいじょうぶ♪あたしにまっかせなさい♪………直接会えないだけで、あたしはここに居るから…」だんだんその声が遠ざかっていくのが分かった。
どんなにもがいても届かない向こうに。
大丈夫だよ、シア あたしはここに居るから
シア「待って!……!行かないで!…一人に……しな、いで…!」
あたしはシアの事大好きだから、寂しいのも我慢できるから
だから…
シア「お願い……!待っ……!」
おやすみ……
もう、あの娘の声は返って来なかった。
シア「あ……あ……ふ、ぅ…ぁ、ぁぁ…あぁぁぁ…!」
……
冬の夕暮れの時間はとても短く、既に日は沈み、部屋は暗闇が支配し始めていた。
シアはカチリとこたつの上の小さなスポットに光を灯した。
蛍光灯をつけなかったのは涙を悟られない様にするためだったんだろう。
その頬には涙の跡が残っていた。
- 381 名前:追憶の二人8/13[sage] 投稿日:2007/12/11(火) 00:15:16 ID:w/O/Hdte
-
稟「シア…」
俺が手のひらでそれを拭うとシアはむずがる様に顔を俺の肩にすり寄せた。
シア「ん……ごめんね……少しだけ…」
そう言って僅かながら咽ぶような声のシアの目元は未だに涙を留めているのが分かった。
稟「シア……、顔を上げて?」
俺には義務があると思う。シアの悲しみを受け止める義務が。
シア「稟く…ん…」
おじさんがリアさんの悲しみを受け止めたように。
言葉でいくら語っても嘘だと、そう思ったから俺は…
シア「…んっ……」
気持ちを込めて小さな、とても小さなキスをした。
どれ程の間、繋いでいたんだろうか。
そっと互いの唇が離れる時にはシアの目には涙は残っていなかった。
安心感、なんだろうか。涙の無いシアの顔を見て、俺はフッと微笑んでいる事に気付いた。
シア「え、えへへへ…ありがとうね、稟くん♪」
稟「俺はシアにも笑っててほしいからな」
クスクスと笑うシアの顔は、今までの話もあってか俺の目にはとても幼く映った。
あれ…?この感じ、なんだかとても懐かしい気がするんだが…
シア「あっ、なんだか初めてキスした時の事思い出さない?」
初めて……ああ、あの時か。
不意に抱いたデジャヴはシアの一言で一気に解消された。
もっとも、今思い出しても恥ずかしい記憶なのだが。稟「今思えば、シアも結構『おませさん』だったんだな」
シア「どうゆー意味ッスか?それー。私にはこれでも一大決心だったんだよ?」
キスは神族にとっては神聖な誓いなんだが…思えば軽はずみな事をしてしまったんだなぁ。
━━あの時は芙蓉家に居るのが堪らなく辛くて、日が暮れて芙蓉のおじさんが帰って来るのを待ってたんだっけか
━━そんなときにフラリと駅前に寄ったら変わった女の子が泣いてたんだよな
シア「…ひ…ぐ……ひっく…」
僕と同んじくらいの…女の子…?なんで泣いてるんだろ?
周りを見てもお父さんもお母さんも居ない。はぐれちゃったのかな?
稟「……」
ちょっと見てたんだけど誰も声をかけたりとかしない。ただ通り過ぎてく。
あんなに泣いてるのに…。
稟「……ええぃ!こういう時こそ行くのが男の子の役目だ!」
お父さんが言ってた。
『自分に出来ることをやらないのは、出来なかった事の言い訳にならない』って。
だから僕はその子に声をかけたんだ。できるだけ優しく…
稟「…どうしたの?なんで、泣いてるの?」
シア「え…ヒック……だ…れ?」
稟「僕?僕は……稟。 土見 稟。……君は?」
シア「…リシアンサス」
座り込んだままだったけどちゃんと僕の問い掛けに答えてくれた。
- 382 名前:追憶の二人9/13[sage] 投稿日:2007/12/11(火) 00:59:19 ID:w/O/Hdte
-
稟「へ?りしあん、さす?…変わった名前なんだ」
なんだろ、外国人なのかな?そういえば耳も少しとがった感じだし、日本人じゃないのかな?
稟「えーと、りしあ…、りあしん…あれ?」
うー、なんだか覚えにくい…。
シア「…シア」
稟「へ?」
シア「リシアンサスって長くて呼びにくいから、みんなシアって呼んでるの…」
稟「シア…かぁ。うん、じゃあ、『シア』、お父さんかお母さんは?」
シア「分かんない…」
稟「え、えーとじゃあお家は…」
シア「神界にある…」
・・・どこ?
真貝?わ、分かんないや…。どうしようかなぁ。
周りを見渡してみたけどやっぱりこの娘のお父さんとかは居ないみたいだ。
シア「…グスッ………ふ…う……ぅ…」
わわわわ、ま、また泣いちゃいそう!えーと、こんな時は、こんな時は!
稟「じゃあさ、一緒に遊ぼうよ!その内お父さん達が探しに来てくれるんじゃないかな?」
シア「え…?グスッ…」
稟「ほらほら、立って?」すっと目の前に手を差し出たら、その娘はおずおずと僕の手を握ってくれた。
グッと力を入れて引っ張ったら、その娘もそれに合わせて立ち上がってくれた。シア「……」
いきなり誘っちゃったからかな?なんだかぽやーっとしてるみたい。
それとも、怖がられてるのかなぁ…じゃあ…
僕は出来る限りの笑顔でその娘に笑いかけてみた。
シア「…ぁ……♪」
そしたら固まってた顔が笑顔に変わっていったんだ。
最初に見たときに可愛い娘だなって思ったけど、さっきの泣き顔より断然笑顔の方が可愛いや。
稟「じゃあ、行こうよ!」
シア「う、うん♪」
━━さっきの笑顔はその時の顔に似てたかな?
━━その後神王のおじさんがシアを迎えに来たときに…「アレ」をしてしまった訳だが…
…
神王「シィィィアァァァーーー!良かった……本当に良かったぁぁぁ!!」
稟「…」
シア「ちょっと、お父さん!痛いかも…」
なんだろう、こんなに泣きじゃくる「大人の」人は初めて見た気がする…
とても、こんな可愛い娘のお父さんには見えないんだけど…
神王「大丈夫だったか?寂しくなかったか?変なヤツに襲われたりしなかったか?」
シア「うん♪大丈夫だよ。稟くんが一緒に居てくれたから」
そう言ってシアはこっちに目線を向けた。
神王「ん?おぉ、ぼうずがシアと遊んでてくれたんだな。ありがとよ!」
バンバン!
痛ったぁ…そんだけ大きな手で肩を叩かれたら痛いんだけど…
- 383 名前:追憶の二人10/13[sage] 投稿日:2007/12/11(火) 01:01:51 ID:w/O/Hdte
-
神王「よっしゃ、じゃあ帰るか、シア。リアもあっちで待ってるぞ」
側近「シア様、参りましょうか」
シア「ちょっと待って、稟くんにお礼言ってくるね?」
そう言うとパタパタとシアが僕の方まで駆け寄ってきた。
シア「稟くん、今日は本当にありがとうね♪…また、会えるかなぁ?」
どうだろ?もう会えなくなっちゃうのかなぁ…?
稟「分かんないけど…、君が会いに来てくれたらまた会えるよ。僕はこの街に居るから」
僕はここから動けないから。動いちゃダメだから。
それに、もう一度位なら会えそうな気がする。なんとなく、だけど。
稟「だから、シアがこの街に遊びに来たらまた遊ぼうよ」
シア「じゃあ、今度会うときは稟くんの……稟くんの『お嫁さん』にしてね♪」
稟「え?」
神王「にゃ、にゃにぃぃ!?おいシア、そりゃどういう…」
シアのお父さんが叫ぶような声を出したその時だった。
シア「…ん…♪」
稟「……!!」
目の前にシアの顔があって、僕の唇には今まで感じたこと無い柔らかい感触が触れていた。
これって、まさか……!
神王「シアおまkgt1aまm5dj8th!!1!…が……ま…」バターン…
側近「し、神王様!?」
凄く長い時間だったのか、凄く短い時間だったのか分からないけど僕達はキスしてた。
シア「えへへ♪約束だよ♪」
唇を離したシアは何だか照れ臭そうに笑ってた。
少し向こうでシアのお父さんが倒れた様な気がしたけど、それより自分達がした事にビックリして声が出なかった。
……これ、僕の初めてのキスになるのかな…?
シア「それじゃあまたね、稟くん♪」
何だか後ろで慌ただしくシアのお父さんが運ばれて行く方にシアが駆けて行くのをボーッと見つめてた。
シア?「稟!」
突然シアがクルッと振り向いて僕を呼んでいた。
シア?「シアの事、宜しくね♪」
シアの事…?
フリフリと手を振って駆けていくその娘はさっきまで遊んでいた女の子と違う雰囲気だった気がした。
その娘達が見えなくなるまで、僕はその場でずっと立ち尽くしていた…。
……
稟「今思えば、あれはキキョウだったのかな?」
シア「うーん…ちょっとだけだったから分からないけど…」
少し考えてみたけど、シアとキキョウが同時に起きてる事になっちゃうから変なんだよな。
シア「多分、あの時なんじゃないかな。一度、心を眠らせたキキョウちゃんが、また表に出れるようになったのは」
稟「どういう事なんだ?」少し悲しげに目を伏せてシアは語り出した。
- 384 名前:追憶の二人11/13[sage] 投稿日:2007/12/11(火) 01:02:49 ID:w/O/Hdte
-
シア「実は稟くんと初めて会うその日まで、ずっとキキョウちゃんは眠ったままだったの…」
稟「……」
シアが語るところによると、キキョウはどんなにシアが呼び掛けても答えてはくれなかったらしい。
完全にシアの奥深くで眠って出てきてはくれなくなったんだと言う。
シア「でも、稟くんに会ってキキョウちゃんは変わった」
稟「俺に…?」
シア「稟くんはあの時私を助けてくれた。励ましてくれた。優しく…してくれた……1人寂しく泣いてた私に、あの娘に…
神族の王女とか違う種族とかそんな事関係なく、優しくしてくれた。そんな優しい男の子に私は恋をした…
あの娘もそんな優しい男の子を、好きになっちゃったんだと思う
その日からキキョウちゃんは時々だけど出てきてくれるようになった……ホントに時々だったけど」
シアは昔のキキョウを思い返していたんだろう、少し眉をひそめながらクスクスと苦笑していた。
シア「だからね、あの娘の眠りを覚ましてくれたのは稟くんなんだって思ってるの」
稟「俺が…?」
シアの話を聞いても実感が沸かないが、あの時キキョウが出てきたのは
俺がどんなヤツなのか自分の目で見てみたかったからだろう。
ただの興味本意なのか、それともシアの言うように…?
稟「毎回思うんだけどホントに大したことした訳でも無いんだけどなぁ」
シア「ううん、大事なコト♪ずっと1人だったあの娘にはもっと大事なコトだと思うよ?」
シアはスックと立ち上がるとクルリとこちらに振り向いた。
シア「だから、ありがとうね稟くん♪あの娘を二回も助けてくれて」
ここまで面と向かってお礼を言われると何だか気恥ずかしいな…。
笑顔でそう答えるシアの顔はとても眩しく見えた。
稟「やれやれ、シアには敵わないな……よっと」
シアに合わせて立ち上がると俺は蛍光灯の電気を入れた。
フッと明るくなった部屋でシアの顔を覗くと、未だに涙の後が残っていた。
稟「ほら、シア。そろそろキキョウが帰ってくるぞ」
指先でその頬の跡をなぞり上げた。
シア「えへへ……♪ごめんね、稟くん」
キキョウ「ただいまー」
稟「お、噂をすればなんとやら、だな」
ガラッ
キキョウ「うぅ〜…寒かっ……どうしたの?」
俺達の様子が少し不思議に思えたらしい。キキョウはその場に立ちながら目をパチクリさせていた。
稟「い、いや、なんでも……?」
なんだか、シアの肩が震えてる気が…?
ガバッ!
キキョウ「うぇぇ!?ど、どうしたのシア?!」
- 385 名前:追憶の二人12/13[sage] 投稿日:2007/12/11(火) 01:03:39 ID:w/O/Hdte
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キキョウがすっとんきょうな声をあげるのもその筈、シアがいきなりキキョウにだきついたのだ。
キキョウ「…何かあった?」
シア「ううん、何でもない…♪」
未だに事情の飲み込めないキキョウはきょとんとした表情のままシアの抱擁を受け止めていた。
キキョウ「…稟、これ、どういう事?」
稟「えーと、つまりだな…シアはキキョウが大好きだってこと」
キキョウ「はぃ?ちょっ…ちょっと稟!?」
なんとなくだけどシアの今の気持ち、分かるな。
幼い記憶の中ではシアとキキョウは二人一緒に居られなかった。
だけど今は違う。一人一人、別の存在としてここに居る。
稟「俺もキキョウの事が好きだからな。だから気にしなくていいぞ」
俺もシアと一緒になってシアごとキキョウを抱き締めていた。
さっきまで外に居たからだろう。キキョウの着ていたダウンは触れたときに、ちょっと冷たかった。
キキョウ「ちょ、ちょっと稟まで……気にするなって方が無理な気がするんだけど…」
稟「いいから…暫く、このままで…」
実は離せない理由がもうひとつだけあるんだよな。
シア「ごめんね、もうちょっとだけ……」
キキョウには見えない肩越しにシアが泣いてるのが俺には見えていた。
それは、今まで見せていた悲しみの涙じゃなく…
キキョウ「はぁ……まぁ、温かいからいっか♪」
シア「…♪」
キキョウが自分の抱き締められる存在になった嬉しさの涙なんだと思う。
…
〜エピローグ〜
神王「稟殿〜〜〜!!」
あれ…?
ガラッ!
神王「稟ど…すすすすまん!」
ピシャッ!
んん…?神王のおじさん、どうしたんだろ…?
稟「う…どうしたんですか…?」
ああ、俺、シアの部屋で寝てたのか………ん?
キキョウ「稟…、どうしたの…?」
シア「もう朝…?」
・・・・
そりゃ神王のおじさんも戸を閉めるよなぁ…二人ともそんな服がはだけた格好してたら。
…朝だからなお困る。主に俺自身の理性が。
神王「す、すまねえな。ちょっと外に出てみねえか?」
シア「お父さん…?何かあるの?」
神王「おう!ちょっと面白いもんがみれるぜ?」
面白いもの…?あんまり良い予感はしないな…。
稟「仕方無い、行ってみるか…」
理性が利かなくなる前に現状打破してた方が良さそうだ。
…
キキョウ「え、これって…」
シア「もしかして雪?」
稟「驚いたな、昨日の夕方までそんな天気じゃなかったのに」
着替えを済ませて外に出てきた俺達を迎えてくれたのは銀世界だった。
と言ってもうっすら積もっている程度だが。
- 386 名前:追憶の二人13/13[sage] 投稿日:2007/12/11(火) 01:04:42 ID:w/O/Hdte
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キキョウ「へぇ〜、初めて見た…」
シア「一応、知ってはいたけどこんなに綺麗なんだね〜」
稟「ああ、神界じゃ雪は降らないんだっけか」
それならこんな風景も珍しいもんなんだな。
神王「おお、稟殿、シア、キキョウ。起きてきたな」
稟「あぁ、おじさ・・・・・・な、なんですか!その巨大すぎる雪玉は!」
俺の体の倍くらいありそうなほどの雪玉をおじさんは担いでいた。片手で。
なんというマッスル…。
神王「ん?おお、コイツは雪ダルマの胴体だな。前の道路の雪掻きついでに作ってみたんだ」
ズシン…!
も、もはや雪の音じゃないよな…。
リア「お?みんな起きてきたんだ?」
コロコロとさっきより一回り小さい雪玉をリアさん達が三人で転がしてきた。
どうやら頭の部分らしい。
ライラ「ゆーくん…これ、重い…」
アイリス「乗せてもらえます?」
神王「おう、任せな!あらよっ…と」
ドス!
なんちゅうサイズだ。俺の身長を優に越えてるぞ…。リア「さてさて、お待ちかね!みんなで記念撮影ターイム!」
シア「…お母さん、唐突にどうしたの…?」
シアの疑問も当然だ。余りに突然すぎますけど、リアさん…。
神王「いやよぉ、昨日リア達と話をしてたんだが家族が増えてから記念写真を残してねえなって話になってな」
そうだっけ?なんか写真は沢山撮ってる気がするけど…。
ライラ「家族だけの写真ってアルバム見ても無いんだよね〜」
シア「そっか、いつもみんないるもんね…」
キキョウ「よくよく考えると麻弓とか樹とかが一緒に写ってることが多いかも…」
神王「てなわけだ。さぁ、並んだ並んだ!シアはここ…っと」
リア「はいはい、キキョウちゃんはこっち♪」
キキョウ「ちょっと、お…お母、さん…」
未だにキキョウは神王のおじさんやリアさん達を「お父さん、お母さん」って呼ぶのは抵抗あるんだよな。
リア「うーん♪ぎこちないけどキキョウちゃんのそういうところもラヴよ♪」
この人にとっちゃお構い無しか…。らしいけど。
稟「じゃあ、俺、撮りますよ」
神王「おいおい、稟殿はここだぜ?」
ぐいっと引っ張られて、シアとキキョウの丁度真ん中に連れてこられた。
稟「え、家族の写真なんじゃ…?」
神王「だから、稟殿はシアとキキョウの旦那で俺達の家族じゃねーか」
稟「あ」
失 念 し て ま し た ・・・
アイリス「じゃあ、タイマー入れますよー?」
神王「おう!いつでもいいぜ!」
ライラ「それじゃ、えいっ」
ジーーー…
━━シア…
━━ん?何?稟くん
━━良かったな
━━……うんっ♪
カシャッ…
- 387 名前:名無し ◆85siVFU0r. [sage] 投稿日:2007/12/11(火) 01:11:02 ID:w/O/Hdte
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終わりッス♪
なんだかやりたい事だけやったからgdgdな気がしないでもない…
もうちょっと煮詰めるべきだたかも?
今回、念頭にあったのは神ちゃんの苦悩でした。
作中諦めが良すぎる気がしたのでよくよく考えてみたら今回のSSのネタになってました。
感想とか聞けると嬉しいです