- 272 名前:238[sage] 投稿日:2007/11/14(水) 01:57:00 ID:lHzaNKNF
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ようやく完成しました……眠い……
思いっきり冗長な文章になってしまいましたが、約束通りとりあえず晒します。
題名は、「空」で。
- 273 名前:空 プロローグ01[sage] 投稿日:2007/11/14(水) 01:59:59 ID:lHzaNKNF
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歩きながらも何気なく、空を見つめる。
仰ぎ見るは、空を染める夜の帳。
漆黒を彩る、輝ける無数の星々。
静寂を感じさせ、だが存在を忘れさせまいと輝き続ける満月。
こちらがいくら歩けども、その美しき闇と光のコントラストは、俺達を追いかけ丸め込んで、決して離そうとしてくれない。
魔界の夜空。
繊細、豪快、慈悲、冷酷──様々な顔を持ち、気まぐれにその姿を変える自然を一番保つ、景勝も多い魔界の地。そこで見る空は、やはり偽り無きその美しい姿で、人の目を奪い、魂を惹き付ける。
何時だったか、こんな空を、この場所で見た事が脳裏に浮かぶ。
それは、そう遠くない過去。
夜空の下の邂逅。
木漏れ日の如く、降り注ぐ銀光。
風を孕んで囁き揺れる、木々の枝葉。
そして、紫の瞳の少女。
「稟さま、どうかなさったんですか?」
すぐ隣で、朗らかな声が響く。
その声に誘発され、顔に自然と微笑が浮かぶのが感じられた。
手を少し伸ばせば触れられる、そんな距離から発せられた声。
その声の主は、俺が望んだ未来そのもの。
微笑を維持したままゆっくりと首を動かし、俺はその少女を見つめる。
目に映るは、一人の少女。
赤い瞳を持つ、少女。
こちらを見つめ返すその笑顔に見とれながら、口を開いた。
「いや何、この前ここに来た事を思い出してたんだ」
その一言で少女──ネリネの笑顔の中に、ふと寂しげな影が生まれる。
俺なんかお呼びじゃないほどに頭の回る彼女のことだ。今の言葉で、俺が何を思い出していたのかを悟ったのだろう。
「リコちゃんの事、ですね?」
静かに言い放たれた言葉は、不思議と強く耳に突き刺さる。
言葉には、怒りや呆れなど含まれてはいない。ただ、哀愁と懐古の響きが、余韻となって心に届く。
やはりネリネの予想は、的確にこちらの心中を当てていた。
ここまで思考を読まれていると思うと、正直苦笑せざるを得ない。
頭を掻きながら、少し視線をそらす。
「……ああ。あの時の事が、懐かしくてな」
- 274 名前:空 プロローグ02[sage] 投稿日:2007/11/14(水) 02:00:39 ID:lHzaNKNF
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答えを返し、言葉を切る。
今でも鮮明に思い出せる、彼女との出会い。その記憶は、まるで押し寄せてくる波の様に俺の意識へと浮上し、過去を鮮明にフラッシュバックさせる。
一陣の風が、会話に間を置かせるかの様な絶妙なタイミングで、吹き抜けていった。
そして、静寂。
会話をピタリと止め、俺達はただただ、静まり返った森の道を歩んでいく。
だが二人の間に流れる空気に、気まずさの様な負の雰囲気は無い。
そこにあるは、深い安らぎ。
安堵感とも取れる不思議な感覚が、傍らのネリネから出で、俺を包み込んでいる。
しかもこの深々とした夜の森の相乗効果もあってからか、この場は神秘的でもあるネリネの雰囲気を加速させ、まるで抱かれているような安心を覚える。
そしてその安らぎを堪能し、体全体に染み渡らせようとするかのようにその場に浸っていた時。
「稟さま」
不意に柔らかく耳に当たる、深い愛情をもって俺を呼ぶ、彼女の声。
腕に回される、心地よい温かみを持った彼女の細腕。
そして同時に感じる、柔らかいながらもしっかりとした、まるで軟式野球のボールを腕に押し付けられたかのような感触。
幾度と無く体を触れ合わせたとて、飽きる事は無いであろうこの感覚。
安らぎと幸福、至上の二つの感情を覚えながら少しばかり首を回すと、そこにははにかむ笑顔を浮かべながら、抱きつくようにして腕を絡ませているネリネの姿があった。
無意識に、こちらにも穏やかな笑顔が浮かぶのを感じる。
ネリネが少し首を上げ、こちらを仰ぎ見た。
視線がぶつかると同時に、ネリネの笑みが一層強くなる。そしてその笑顔のままネリネは目を閉じると、首を傾けこちらの腕へともたれかからせる。腕にかかる重みからは、ネリネが俺に置く全幅の信頼が流れ込んでくる様だった。
そして森の道を、先程と変わらず、ただただ気の向くままに歩き続ける。
日常とは違い、ゆっくりと流れていく時間。
ここには、その大切な空間を壊す物など何も無かった。
そんな中、俺はふとある事を思いつき、前を向きながらもネリネに声をかける。
「……なあ、ネリネ」
「何ですか、稟さま?」
ネリネの返答が返ってきたところで、急に足を止める。同時にネリネも立ち止まり、再びこちらの顔を見上げた。
少しばかり視線を逸らしつつも体ごと顔を向け、気恥ずかしさを感じながらも口を開く。
「首の後ろに、手を回してくれないか?」
「首……ですか?」
頭上にクエスチョンマークを浮かべながら、おずおずと問いただすネリネ。
「うん。抱きつくような感じで、ちょっときつめに」
「これで……いいんでしょうか」
- 275 名前:空 プロローグ03[sage] 投稿日:2007/11/14(水) 02:02:14 ID:lHzaNKNF
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そう言うや否や、ネリネの華奢な腕が、俺の背中に回される。そしてその腕に、決して離すまいと力がこもり、ネリネの体が密着した。
ネリネの、存在感溢れる胸と共に。
「うっ……」
「稟さま!? 苦しいですか!?」
男としての性か。反射的に漏らした俺の声に、ネリネが電光石火とも言うべき速度で反応した。急に抱擁が弱まり、体を包んでいた温かみが抜けていく。
苦しくなんかは無い。むしろ、あの感覚が堪らない。
だが現実は非常。もっと抱きしめて欲しいと思わせながら、俺を包んでいた温もりは消えた。
そして、俺を見つめるネリネ。
見上げるように、少し俯きながら上目遣いでこちらを見る瞳。涙で潤んだ目。怯えた仔犬のごとく、不安いっぱいの表情を浮かべて。
思わずこちらに“撫でたい”と言う感情を催させる、仔犬を連想させるその仕草。
口惜しい、そんな不埒な思いを抱いていた俺に、更なる追撃が加えられた。
どうにもこうにも、俺はこれに弱いらしい。
湧き上がってくる欲望を抑えきれないことを、俺は十分に察知していた。
そしてその欲望を満たすため、とりあえず目の前の小さな肢体を抱きしめることにした。
「きゃっ!」
不意打ちの様な抱擁に驚いたのか、短く悲鳴を上げるネリネ。だが彼女は抵抗する素振り等全く見せず、逆にゆっくりと手を俺の背に回し、抱擁を返す。
甘いとでも表現すれば良いのだろうか。ネリネが持つ、こちらを酩酊させた様にする一種独特な香りが漂い、鼻腔をくすぐる。
「大丈夫だ。例えネリネに締められるんだったら、鎖で絞められたって構わない」
「うう……稟さま、そんなこと、私しませんよ」
「はは、冗談だって」
ネリネはそこで会話を切り、俺も同様に口をつぐむ。
そして、世界は止まる。
正真正銘、二人だけの世界。
先程まで耳に届いていた森のざわめきも、今は耳朶に当たる事さえも許されない。
ネリネの愛を一身に受け、心が癒されていく。
交わす言葉も無い、だが互いに繋がり合っていると確信できる、俺とネリネだけの世界。
大切な一時。
まさしく、世界は止まっていた。
──だが、その停止を打ち壊す事に後ろ髪を引かれる思いを感じながらも、俺は口を開く。
「……ところでネリネ、さっきの続き、やってもいいか?」
「はい……稟さまの、お好きなようになさって下さい」
- 276 名前:空 プロローグ04[sage] 投稿日:2007/11/14(水) 02:04:36 ID:lHzaNKNF
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俺の耳元で、なんだか熱っぽい、恥じらいを含んだ口調で囁くネリネ。
どうやら、俺が今やりたい事とは少し違う物を想像しているらしい。
清純な佳人に、こんな思考回路を植えつけた責任は誰にあるか。それは重々承知している。
だが、こんな勘違いするネリネでさえ愛しいと思うのは、本当に愛し合っているからだと自惚れても良いのだろうか。
苦笑を漏らしながらも、俺は言葉を続ける。
「いや、そうじゃないんだ。腕を離さずに、そのままで」
「……わかりました。でも、稟さま?」
「何だ?」
「……後で、お慰めくださいね?」
「グハッ」
最大級の爆弾が投下され、俺の理性が爆風で吹き飛ばされそうになる。
しかし、北風は旅人のコートを脱がすことができなかった。
何とか言葉という爆弾の衝撃を跳ね除け、倫理だけは守りきる。
……守るのは、今だけなのだが。
「わ、わかったネリネ。でも、それは後で」
「約束、ですよ?」
「ああ、誓って。でもその前に、そろそろやらせてもらうとするかな」
ネリネの背に回した左手を解き、深くしゃがみこんで、離した左手をネリネの膝裏に添える。
「よいしょ」
小さな気合の声と共に、右手に力を込めると、低くしていた腰を上げる。
そして、立ち上がりざまに、左手も一緒に持ち上げた。
「あっ……」
ネリネの体が宙に浮く。突然の浮遊に驚いたのか、ネリネが短く驚きの声を漏らす。
だがネリネの体は俺の両腕に支えられ、地に落ちることは無い。
体の密着面積こそ少ないが、愛する者を自分の力のみで支えていると言う感覚と、またネリネ自身にも、愛する者に体を預けているという安堵感を持たせる、この抱き方。
そう、俗に“お姫様抱っこ”と言う奴である。
「稟さまは、これをやりたかったんですね」
耳のすぐ近くから、鈴を転がした様な、美しく澄み渡る彼女の声が聞こえる。
微笑みながら声の元へと顔を向けると、俺はそこに、同じく幸せを顔いっぱいに表した、可憐な花の様なネリネの笑顔を見る。
視線を交わすと、再び俺は脚を動かし、月光降り注ぐ森の道を歩き始めた。
歩き始めると共に、自然とネリネが腕に力を込め、豊満な彼女の体を押し付けてくる。そして必然的に彼女の顔がこちらに近付けられ、もはや頬擦り出来るのではないかとさえ思う距離まで接近した。
- 277 名前:空 プロローグ05[sage] 投稿日:2007/11/14(水) 02:07:01 ID:lHzaNKNF
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「やっぱりネリネは軽いな。楽々持ち運べる」
「でも稟さま、お疲れになりませんか?」
「いや、あの日から少しは体を鍛え始めたんだぞ? それに……」
「それに?」
「自分の恋人さえ支えられないような人間は、恋人失格じゃないか」
自分で言って置いてこんな事を思うのもなんだが、正直、気恥ずかしい。
彼女と付き合い始めてから随分、俺も軟派な性格になった様だ。
だがこの顔が火照る様な感覚も、今となっては快感でしかない。
俺の言葉に、ネリネは言葉ではなく、こちらが苦しくなる位に抱きしめる事で答えを返す。
固く結ばれた両腕は、決して俺を離そうとはしてくれない。
そして俺達は変わらず、森の道を歩き続けてる。
これが、俺の望んだ道。
選んだ未来。
願った現在。
だが、今一本の道を歩き続けているのならば。
今まで歩んでいた道は、例え忘却の彼方へと押しやられようとも、確実に、しっかりと後ろにある訳で。
そしてそこには、立ち止まってしまった、歩みを止めざるを得なかった人も、確実に存在する。
だが立ち止まってしまったからと言って、その人を忘却の彼方に追いやる事は出来ない。
まして、俺達と歩み続ける事を望んでいた彼女を、俺の想い人を、忘れてはならない。
そして俺は館を出た時から覚悟し、胸中に秘めていた問いを、彼女へとぶつける。
「ネリネ」
俺は問う。
この腕に抱く、彼女に生きる事を望まれた、自分の道まで歩んで欲しいと託された、もう一人の想い人へと。
「何ですか、稟さま?」
彼女は無邪気に反応し、俺の質問を促そうとする。
だが自らの意に反して、声を出そうとしても、なかなか喉から言葉がせり上がって来ない。
俺の問いかけを差し止める物の感覚を、はっきりと感じ始める。
何とかその感情を黙殺し、押し殺した声で問う。
「……二週間前のあの日、あの日に──」
- 278 名前:空 プロローグ06[sage] 投稿日:2007/11/14(水) 02:08:03 ID:lHzaNKNF
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それは、不安。
もはや恐怖と見まごう程の不安が再び頭をもたげ、仕方なく一旦言葉を切る。
あの日から、ずっと不安だった。
彼女は、もっと遠くに行ってしまったのではないかと。
こちらが笑っても、彼女はわからなくなってしまったのではないかと。
そんな予感が、していた。
この問いは、俺どころか、彼女をも傷つけてしまうかもしれない。
でも、俺は問いたかった。
問わなければならないと、思った。
だから、俺は問う。
全身全霊振り絞り、不安を押しのけ。
ゆっくりと、だがはっきりと。
「──リコリスと、また会えたんだよな?」
風が、吹き抜けていく。
相変わらず夜空は輝き続け、幻想を下界に振りまく。
森はざわめき、己の腕をかき鳴らす。
そんな中、俺の目に入るネリネの表情は、驚愕で彩られていた。
しかし、それすらも一瞬。
風が吹き止むと同時に、彼女は先程と同じく寂しげな笑顔を浮かべる。
「……はい」
予想が当たったと言うのに、俺の心には驚きの様な物は無かった。
むしろ、答えが当たった事に対する、妙な安堵感の様な物があった。
「稟さま……知って、いらっしゃったんですか?」
「いや、何故かそんな気がしたんだ。あの時リコリスが、傍に居たような気がして」
「……」
ネリネは、答えない。
回した腕もそのままに、体をねじって俺の肩に顎を乗せ、こちらに表情を見せてくれない。
不意に、大きな罪悪感がのしかかって来る。
俺はこの子を、本当に傷付けてしまったんじゃないだろうか。
触れてはならない傷口に、触れてしまったんじゃないだろうか。
──最悪の予想が、当たってしまったのではないだろうか。
考えれば考えるほど、不安の泥沼に引きずり込まれて行く。
目を閉じ、立ち止まる。
どうやって謝罪すれば良いのか、そんなことばかり頭の中で考えていた時。
不意に肩にかかっていた重みが消失し、ネリネが落ちない様、反射的に腕にかかる力が増す。
突然の事で目を開くと。
彼女の唇が、重ねられた。
- 279 名前:空 プロローグ07[sage] 投稿日:2007/11/14(水) 02:11:23 ID:lHzaNKNF
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「ん……」
彼女の閉じられた口から、小さな声が漏れる。
唇を重ねる。こんな単純な行為でさえ、今の俺の不安を吹き飛ばすには十分な力だった。
そしてゆっくりと、彼女の顔が離れていく。それと共にねじっていた上半身が再び俺の腕へと委ねられ、普通のお姫様抱っこの形に戻る。
そんな愛しい者の顔を、俺は目を細め、ただただ見つめていた。
「稟さま」
ネリネの笑顔。
それは、過去の寂しさと悲しさが篭った、それでいて沈みを感じさせない笑顔。
もう一人の分の命も背負って生きていこうとの誓いを込めた笑顔。
「ネリネは、強いな」
「いいえ、稟さまが居るから、私達は笑っていられるんですよ」
そう言ったネリネの笑顔は、眩しいほどに輝いていて。
やはりネリネには、笑顔が一番似合う。
不安など、今は毛の末程の欠片さえ無い。
だから、俺は問える。
今度こそ、本当に。
「あの日、何が起こったのか──話して、くれないか?」
「──はい」
肯定の言葉を聴き、止めていた足を動かし、再び歩き始める。
ネリネも笑顔のまま、口を開く。
そして、俺に聞かせる言葉を、紡ぎ始めた──
- 280 名前:238[sage] 投稿日:2007/11/14(水) 02:14:09 ID:lHzaNKNF
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長いだけ+読みにくい+まだ途中でスマソ。
しかも突貫工事で文章のレベルがケータイ小説程度……。
続きは書けたとしても二週間後くらいかなあとか。
どれだけの長さ投稿出来るのか分からなかったから、区切りが多少おかしくなってるかもしれませぬ。