「痛ッ…!」
不意に指先に走った鋭い痛み。
その痛みを辿って右手を見ると、人差し指の先に赤いものがぷっくりと球のように膨らんでいた。
それまで手にしていたプリントの端にも赤いものが滲んでいる。
「コイツが犯人(?)か…」
チリチリと続く痛みに顔を顰めながら一瞬前の自分の行動を思い出して呟き、嘆息する。
どうやらプリントの端に指を這うようにして滑らせてしまったらしく、指先をすっぱりと切ってしまったようだ。
「稟さま、大丈夫ですか?」
球型が崩れ、溢れ出した血を苦々しく思っていると、隣から気遣うような声が聞こえてきた。
隣に視線を移すとそこには心配そうにこちらを覗きこんでくるネリネの姿があった。
「稟さま、血が!? 直ぐに回復魔法をかけますね!」
「あ〜、ネリネ、落ちつけ。これくらい大丈夫だから」
俺の指先を見て慌てて魔法の詠唱を始めるネリネに苦笑しつつ、空いた左手を振って大丈夫だと示す。
出血したといっても指先をほんの数ミリといった位なのだ。
そんなことでわざわざ魔法を使ってもらってはこちらが恐縮してしまう。
「ちょっと紙で切っただけだから大丈夫だよ」
「ですが…」
「これくらい舐めときゃ治るよ」
未だ不安そうな表情のネリネを安心させようと、おどけた様に笑う。
するとネリネは一瞬考え込むような仕種をした後、どういうつもりか分からないが両手で俺の手を取り、自分の方へと持っていった。
そしてそのまま俺の人差し指をその口元、小さな唇にそっと含んだ。