「稟さま、もう、……もう駄目、なんでしょうか?」
「…ああ、もう、別れよう、ネリネ。これ以上、側にはいられないんだ…」
視線を合わせることも出来ず、喉の奥から絞り出すようにして何とかその言葉を呟くと、俺はネリネの細い指先を離した。
「…そう、ですか。…最初から解っていたことですから、気に、しないで、…くだ、さい。…ここまでこれたことが、幸運…だったん、です…ッ…」
悲しそうに瞳に涙を溜め、それでも無理に笑顔を浮かべようとするネリネの姿に胸がズキンと痛み、早くも後悔の念に襲われる。
「………ゴメン」
涙を堪えながら、それでも気丈に振る舞うネリネ。
細かく震える小さな身体を抱きしめてやりたい、守ってやりたいと思う。
だが目前に迫った別れの前に、実際のところ俺はそんな一言しか言ってやれなかった。
そんな自分に歯痒くなり、俺はただ俯き、拳を握り締めた。
「…いいえ、稟さまは悪くありません。…稟さまが悪いことなんて、ないん、です…」
赦すように言うネリネの頬には、堪え切れずに溢れ出した涙が一筋、音もなく流れていた。
それを見た瞬間、振り切ろうとした思いが再び蘇り、胸が熱くなる。
思わず俺はそんなネリネを…
「…あの〜、土見く〜ん? リンちゃ〜ん? お取り込み中申し訳ないんですが〜…」
突如響いた第三者の声。
振り向くとそこには麻弓が何故か引き攣った表情のまま俺たちを見ていた。
「課外授業の班決めで別々になって、違う場所に行くことになったくらいでそんなに盛り上がられても…」
「いや、だって…」
「そうです。以前から二人で楽しみにしていた行事なのに…」
「緑葉くんなんて『付き合ってられないね』って、もうさっさと先に行っちゃったのですよ〜」
疲れたように溜息を洩らす麻弓にもごもごと言葉を濁す俺達。
「ぐすん、稟さまと一緒に行きたかったのに…」
「ネリネ…。あともうちょっとなら一緒に行っても…」
「本当ですか!?」
「あ〜もう! 既に何度も繰り返したそのやり取りはもういいから!」
何故かぷりぷり怒っている麻弓。
友人達の苦悩を理解してくれないなんて、なんて友達がいのないやつだ。
「はぁ〜…もう、分かったわよ。リンちゃん、私と班交換してあげる! そうすれば土見くんと同じ班になれるでしょ?」
「本当ですか!? ありがとうございます、麻弓さん!!」
「意外といい奴だったんだな、お前!」
麻弓の提案に飛び乗る俺達。
いや、やはり持つべきものは友達だと思わせてくれた。
「いつまでもこんな馬鹿ップル見せつけられるよりは遥かにマシなのですよ…」
「ネリネ!」
「稟さま!」
何故か刺々しい麻弓の言葉を華麗にスルーしつつ、俺たちはひっしと抱き合ったのだった。