寂れてるみたいなんで、短いし拙いものだけどバレンタイン記念SS投下します

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「稟さま、これ、バレンタインのチョコレートです。…受け取って頂けますか？」
「ああ、勿論。ありがとうな、ネリネ」

２月１４日、バレンタインデーの午後、魔王邸にて。
とびきりの笑顔を浮かべてチョコを差し出してくるネリネに俺も笑顔で頷き、差し出されたチョコを受け取っ

た。
俺の手のひらより少し大きな、綺麗にラッピングされたネリネからのチョコレート。
照れ笑いを浮かべながらそれを弄んでいると、ふとあることに気づいた。

「そう言えば、これって生まれて初めての“恋人からの”チョコ、なんだよなぁ」

今までとは決定的に異なるその事実、その単語の響きに、呟いた次の瞬間どうしようもなく気恥ずかしくなっ

てしまう俺。
だが、その気恥ずかしさと同じかそれ以上に喜びの感情が胸に満ちていることも自覚でき、俺は頬を緩ませな

がら視線を彷徨わせる、という微妙な表情を浮かべてしまっていた。
見ればネリネも恥ずかしそうに、耳の先まで赤くさせながら指先をもじもじさせている。
むず痒いような、けれどとても暖かく甘い雰囲気が辺りを包み、思わず俺達は二人揃って黙り込んでしまった

。

「早速だけど食べてもいいかな？」
「は、はい、是非！　私にしては信じられないくらいに上手に出来たんですよ」
「へ〜、そうなんだ。それは楽しみだな」

むず痒さを誤魔化すように笑いかけ、ネリネの了解を得てから包装紙をやリボンを丁寧に剥がしていくと、ネ

リネの言葉通り綺麗なハート型のチョコレートが現れた。
表面に焦げた跡や凹凸や傷もない、とても綺麗な色形のチョコに、俺は思わず感嘆の溜息をつく。

「確かに凄く綺麗に出来てる。何だか食べるのが勿体なく感じるよ」
「う〜、そんなこと言わないで、遠慮なく食べて下さい…」

期待に満ちた目でこちらを見つめ続けるネリネの視線に押されるように、おずおずとチョコを口に運ぶと、ぱ

きっと乾いた音と共に俺の口内に僅かなほろ苦さが広がった。
そのまましばらく舌の上で転がしていると、徐々に溶け始めたチョコが程よい甘みを醸し出してくる。

「…………………」

不安そうにこちらを見つめるネリネを視界の端に映したまま、俺はゆっくりとチョコを呑み込んでいった。

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「……うん、味も悪くない。美味いよ、ネリネ」
「本当ですか！？　本当に、美味しいですか？」
「ああ、本当の本当！　甘すぎず苦すぎず、非常に俺好みの味で美味いよ」

笑顔でそう告げた俺に、胸の前で手を組み、不安げに俺の表情を窺っていたネリネが心底ほっとしたように微

笑み、やがて感極まったように紅い瞳に涙を浮かべはじめた。
料理の苦手なネリネがここまでのものを作るのには相当苦労したのだろう。
指先で涙を拭いながら何度も何度も良かった、とネリネは呟いている。
自分のためにそこまで頑張ってくれた少女に、俺の胸に自然に温かいものが満ちていく。

「あむ…んぐ…ん…。美味しかったよ、ネリネ、ありがとうな」

じっくりと味わいながらチョコを平らげた俺は再度ネリネに礼を言い、未だに軽くしゃくりあげているネリネ

を優しく抱きしめ、その背中をぽんぽんと叩いてやった。

「…ぐす、これからも、もっともっと色々なものを作って差し上げられるように頑張りますね」
「ああ。…だけどあまり無理はするなよ？」

目を瞑ったまま俺の胸に頬を擦り寄せ、呟くネリネに俺はその長い青髪を撫でつつ、苦笑混じりにそう答える

。
ネリネの性格からすれば俺のため、と本気で倒れるまで頑張りかねないからだ。
するとネリネはふふっと微笑み、俺の耳元に口を寄せると、

「稟さま？　私は稟さまの為なら、そして稟さまが一緒にいてくださるのなら、どんなことでも頑張れるんで

すよ？」

チョコより甘くとろけた声で囁き続けた。

「稟さまが一緒にいてくださるなら、どんなことだって平気なんです。…だから、これからもずっとずっと一

緒にいてくださいね？　My sweet heart…」

ネリネの囁きが終わると同時、俺の頬にチュッという音と共に柔らかな感触が残る。
どこまでも健気な恋人に、俺は何も口に出来ず、ただその身を更に強く抱きしめることで答えた。